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贄姫
第3章 参


「…落ち着いたか?」


それに椿はこくりと頷いた。
周の心音は心地よく壊れ物に触れるかのような
優しい抱きしめ方が切なかった。
涙が出そうになるのを必死にこらえたせいで
周の着物をぎゅっと強く握ってしがみついた。


「もしかして、あまりよくねれなかったか?」


頭を撫でられると
気持ちよくてこのまま寝てしまいそうだった。
寝不足というよりかはショックの方が大きい。


「気分転換に、学校行くか?
嫌なら母屋で休むか?」


「周が行くなら行く…。
あのさ、その…首のところ…」


「痛むのか?」


それに椿は首を振った。


「術で隠してくれない?
ちょっと、暗の森の滝で体洗ってくる。後で来て」


わかった、と周が頷いた。
それを見てから、椿は立ち上がって障子を開けると
下駄をつっかけて逃げるように走って行った。
それを見守ってから、ふと周はため息を吐く。


「…何があったんだ…?」


「知りたいか?」


ハスキーな声が聞こえてきて、
周はさらに深く息を吐く。


「そこに居るのは分かっていた。
椿に、あいつに何したんだお前?」


ふふ、と笑う声もハスキーで
それが妙に鬼の美しい顔と一致していない。
周はどことなくこの鬼に違和感を覚えていた。


「ちょっと遊んだだけだ。
思った以上に我慢強そうだけど
割といい声で啼くぞ」


周は瓊乱を睨みつけた。


「貴様…」


「契約内の出来事だぞ?
あいつの身体は俺のもんだ。
犯してはいけないなんて契約した覚えはない。
もっともそんな内容なら俺は承諾してない」


『なんと失礼な! やってしまいますか、主様』


『椿様を侮辱するなど許せん! 主様、どうかご命令を!』
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