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贄姫
第3章 参
『なんだか…ずいぶんと人っぽい奴ですね…』
「ああ」
ーーー何か、隠してる事がありそうだなーーー
周は鬼の去った後を見てそう感じ取った。
『主様、あの丸薬取られてしまいましたが…』
「ああ。念のため2粒ほど持っているんだか…。
あいつ、まさかあれを使う気か!?」
『やり兼ねませんね。あの鬼なら』
「くそっ!」
今から殺しに行こうかと提案する
鈴鹿と葛を退がらせると椿の着替えを持って
暗の森へと向かった。
静まる森は透き通るような空気で
肺から入れた空気が全身を巡るだけで
全てが浄化されるような気分だった。
周が滝までいくと、
椿は滝壺の中に立っていた。
見慣れているはずなのに、なぜかとても妙に落ち着かなかった。
あの首の痣のせいだろうか。
「待たせた」
周が術の準備に取り掛かった。
本当は、夏の肌が見える時や
健康診断や身体測定の時などの
限定した時にしかしない
白刺青を一時的に見えなくする術だ。
白いので目立たないが
肌が赤みを帯びたりすると
うっすらと浮かんでしまう。
これは英家の中でも
周以上にうまくできる術者はいない。
椿と常に一緒にいるため
また術が解けそうになったらすぐに掛け直しを強制的に強いられたために
否が応でもうまくなった。
「どうした? 準備できたぞ?」
声をかけても、椿が滝壺から動かない。
背中を向けたまま何か考え事をしているようだった。
仕方なく、周は呪符と長針を持って
自分も滝壺の中へと入った。
「大丈夫か?」
肩に手をかけようとして、その手を止めた。
何か、安易に触れてはいけないように思えた。
背中の刺青は人間業ではありえない精巧さで
美しい文様を織りなしている。
花や幾何学模様、術式にもに似た模様。
それらがからまり合いながら
1つのハーモニーを奏でていた。
言われなければ、これが呪いだとは、誰も思わないだろう。