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贄姫
第3章 参
暗の森から帰って、制服に着替え
母屋で食事を済ませるころには、とっくに登校時刻になっていた。
「急げ、もたもたするな!」
「してないわよ! あたしの足は人よりデリケートにできてるのよ!」
いつもの日常よろしく
2人で小競り合いのけんかをしながら登校するさまは、
英家のみんなをほっとさせた。
椿が寝たきりになり、邪気にあふれかえる家からは
自然と明るい話題が減っていた。
2人がこうして元気に登校する姿は
少なくとも、英家にとっては、
あの儀式の前のいつもと変わらない日常の端くれのように目に映った。
『主様も、これで元気が出たようでよかった』
『本当ね。一時はどうなるかと思ったけど』
鈴鹿と葛2人を屋根の上から見送る。
まだ復興しきれていない英家に
強力な式を置いていく周の力には目を見張るものがある。
遠くから使役するのは、それなりに体力を消耗しやすい。
『あちらは千代菊(ちよぎく)と壷糯(つぼもち)がついているから大丈夫よ。
さて鈴鹿、われらは家の修繕に入ろう』
そういう葛の腰のしゃれこうべが、二つ無くなっていた。
『ああ、一日も早く直したほうがいい』
鈴鹿はうなずくと、2人はどろんと煙に巻かれ、見えなくなった。
「周、そのかちゃかちゃ言ってるの、何?」
チャイムに遅れそうになって、2人は門前で駆け出す。
といっても椿はとてつもなく足が遅いので、
周が無理やり引っ張っている形だ。
「これだろ?」
チャイムの寸前に門の中に滑り込み
セーフなのを確認してから
周が首からさげたネックレスを2つ取り出した。
しゃれこうべ―――正確には、親指大のミイラになっている頭蓋骨が2つ、
ひょっこりと出てきて、椿は思わず「げ」とつぶやいた。
『椿様! げ!とはなんですか! げ!とは!』
小さいほうのしゃれこうべが、突如カタカタと動き出して
甲高い少年の声を発した。
「千代菊!ってことは、そっちのもう一つは壷糯?」
『ご名答です、姫君』
もう一つのしゃれこうべからは、老年の男の声がした。
「留守番を頼んだら、葛が持って行けっていうから」
椿は渋い顔をした。
それをよそに、周は千代菊と呼ばれたしゃれこうべを
椿の首に無理やり引っかけた。