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贄姫
第3章 参
「だからと言って、椿をそういう目で見る奴は、俺が呪い殺してやる」
半ば本気の周に、紘一郎は苦笑いしかできなかった。
そうこうしているうちにチャイムが鳴って、教室の外のギャラリーは散って行った。
まだがやがやとうるさい教室内で、あちこちからいろいろな声が聞こえる。
壷糯がもぞもぞと動いた。
『主様、美男子は大変ですな』
壷糯のくすくすという笑いに、周はため息を吐いた。
『ずいぶん色々と聞こえまする。
椿様も、男性陣には人気のご様子で。
ですが、一部の女生徒からは、やっかまれておりますね。
ご用心が必要です』
「わかっている」
周はつぶやいた。
壷糯のいう“ご用心”とは、彼女たちに用心することを意味しているのではない。
彼女たちの心に巣食う、闇に用心せよとの意味だ。
妖は暗闇を好む。
心の闇などは、彼らの大好物でもある。
結局、どこへ行っても
こういうことになる運命なんだよな。
椿のほうを見ながら、周は深く息を吐いて目をつぶった。
しばらく来ないうちに、
生徒たちの心の闇が増幅していた。
おそらく、先日の贄姫の儀式のときに
多くの妖たちが押し寄せて、そして散って行った。
その中のいくつかは、ちょうどよく闇を持つ人間の心の隙に入り込んだり
校舎の中に隠れこんだりしたようだった。
「椿に千代菊を持たせて正解かもしれないな」
その独り言に、壷糯は『ごもっとも』と頷く。
千代菊と椿は犬猿の仲なのだが
術の相性は抜群に良く、椿のピンチをたびたび千代菊が救ったのは
間違いない事実だ。
そのため、椿もいやだいやだとごねながらも
結局素直に千代菊を受け取る。
「今日一日くらいは、ゆっくりさせてほしいんだけどな」
その周の独り言は、見事にかなうことはなかった。