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贄姫
第3章 参
「……なっ……!」
椿はそのまま、腰が抜けた。
それに気付いた田上は、辞書を放り出すと
ずんずんと彼女に寄ってきた。
「お前が、贄姫か」
その声は、田上のものだったが、しゃべり方がまるで違う。
『椿様、お下がりください!』
しゃれこうべがそう叫ぶと、ポンと音を立てて
椿の目の前に丁髷を結った男の子が現れる。
こぎれいな着物に、脇に差した刀にはすでに手をかけている。
だが、その姿は半透明だった。
『椿様を狙うとは何やつ!』
しゃれこうべから現れた千代菊はそう言って刀を抜いた。
「どけ、小童。儂が用があるのは、その後ろの娘だ」
『椿様はお前なんぞに用はない!』
椿様逃げて!
そう千代菊が叫ぶが、後ろに行き場などない。
狭い現国準備室は、すでに書籍の山で半分以上が埋まっていた。
千代菊が、田上の振り下ろす辞書をかわしながら、器用に攻撃をする。
その隙に、椿は逃げようと立ち上がったのだが
「逃がすかあああ!」
という雄叫びとともに投げつけられた
分厚い辞書をまともに背中に受けて
反動で倒れこんだ先の本棚から飛び出していたプロジェクターに
したたかに頭を打ち付ける。
机の上に突っ伏すような形で気を失った。