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忘れられない指
第10章 選んだのは・・
凌空との初めての夜はお預けになった。

よほど気分がよかったのか、凌空はめずらしく酔いつぶれてしまった。
彼女としては恋人を抱えて彼の部屋まで帰ればいいのかもしれないが、

「今夜はもうムリ・・咲ちゃんゴメン・・」

よろ着く足で立ち上がり手を合わせ、頭を下げるとカウンターにぶつかった。
鈍い音が痛さを物語る。
でも酔っているから今はあんまり感じていないかも。
朝になって、おでこのアオタンを見て気づくのだろう。

私はあっさりと諦めた。
それでも彼の部屋に行ったほうがいいのかとも思ったが

「悪い、孝明・・咲ちゃん送ってって」

またまた頭を下げながら孝明に私を託した。

「凌空くん、よっぽどうれしかったんだね。
 咲子ちゃん、まぁ今夜のとこは勘弁してやってね。ま、慌てず気長に、ね」

マスターの温かなフォローも知らず、凌空の意識は半分寝ている。
無邪気なマヌケ顔をみんなで笑ってから、史彦が凌空を抱え起こした。


「マスターご馳走様。ほら凌空、帰るぞ」

特別重たい荷物を振り分けられた史彦を気の毒に思った孝明が店の外まで一緒に抱える。

「じゃあマスター、また。ご馳走様でした」

私も3人の背中を追う。
自分の背中には気を付けて帰るんだよ、と慎介さんの声を受けながら。
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