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忘れられない指
第3章 恋のすすめ

凌空と史彦の前にビールが、孝明の前にはモヒートが、そして
私の前に新しいカンパリオレンジが置かれたところで4人の声がハーモニーを作り出す。
グラスの音が伴奏になる。

「今日もお疲れ様でした!」

グラスが合わさると小さなしぶきが私の手を濡らす。
それをペロリとなめる姿を4人の男たちは笑った。


「さっきさぁ、マスターがせっかくオレらを恋人候補に推薦してくれたのにさ、
 咲子ちゃんたら誰のこと?なんてとぼけちゃってさ」

「おっ!なになに?聞きづてならないじゃないの。
 恋人候補ってなによ?」

「おまえ声デケぇよ!」

頭のてっぺんから突き抜けるような凌空の声に、史彦が顔をめいっぱいしかめた。

男達の圧迫感から逃れるように、私は席を移動した。
一つ椅子をあけて、カウンターの真ん中あたり、マスターの正面へと座りなおした。

「そっちで勝手にやってちょうだい!」

人をネタに盛り上がってる男達より、
静かに耳を傾けながらおだやかに笑う大人の男の前を選んだ。
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