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忘れられない指
第4章 決意、そして失恋・・
凌空はケーキにばかり気をとられているのか、端の女性にはまだ気づいていないようだ。

私は彼の袖をつんつんと引っ張った。

「あちらの方からの差し入れなんですって」

言われてやっと、凌空は窓際に目をやった。
彼女はまた、涼やかな笑顔で会釈をした。

「あ、どうも・・こんばんは」

「こんばんは」

「あの・・マスターのお知り合いですか?」

恥ずかしそうに彼女は身をすぼめる。
自分の口から言おうかどうしようか、迷っているように見える。
マスターもなかなか口を開かない。
すると、後ろのテーブル席から声が飛んできた。
振り返ると、
常連の雑貨屋の店主、溝口さんだった。

「その人はねぇ、マスターの恋人だよ!
 5年くらい前よく来てたんだよね?」

風を切る音がするくらいのはやさで溝口さんからマスターへ向き直ると、
だらしなく頬をたるませた、今まで見たことのない幸せそうな髭面がそこにあった。

その顔見たら・・
なにもかも、すべてがその通りだと言っていた。

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