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先生、早く縛って
第22章 指定席の女
駅に着くと、同行する金山課長が直立不動で待っていた。
タクシーのドアが開くなり俺のボストンバッグをさりげなく奪うと、屈託のない笑顔を向ける。
「一海さん、おはようございます! 今日はよろしくお願いします。大船に乗ったつもりでドーンと構えていていただければ結構ですから……そうだ、京都は紅葉もちょうど見ごろですよ」
父親の急なキャンセルに、俺が緊張しているのではないかという心遣いなのか……
課長は大げさなくらい、わっはっはと笑った。
「そういう訳にもいきませんよ。会社の金で観光に行く訳ではないですからね。しっかり勉強させていただきます」
そう応えて、俺は課長と他の社員にも挨拶をした。
課長は営業のプロフェッショナルだ。染めの技法や着物自体への興味はある俺だが、正直、接客などは煩わしいという気持ちが強い。
父の思い描く理想の跡取りとしてはそれではダメだということはわかっている。だから、今回彼から学べることは多いだろう……
そう考えると、今回の父の突然のキャンセルがますます仕組まれたもののように思えた。