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秘蜜に濡れて
第22章 Not enough
会社の最寄駅を出たところでスマホが鳴る。

「もしもし、里美さん?」

『今何処?』

「もうすぐ会社に着きますよ?」

『手前の信号で待ってなさい』

訳もなく電話は切れ、あいりは言う通り信号の外れで立ち止まっていた。

「あいり!」

来たのは圭吾だった。

「どうかしたんですか?」

「お前なー、金曜日、伊坂が攫いに来ただろ?あんな派手な事しやがって…会社中お前を質問攻めにする為に大変な事になってるぞ?」

「え…あ…」

思い当たり節にあいりは絶句した。

人の噂も75日目というなら、真実はいつになったら消えるのだろう。

社食にも行けず、外にも出られず、あいりはひたすら内勤に追われた。

水曜日、ランチは恒例になった屋上へ。

スマホに撥春の名前。

「もしもし?」

『もしもし、あのさ、金曜日…家に行きたいんだけど、都合どうかな?』

「家って…私の、ですか?」

隣で里美が挨拶したいのよと横槍を入れていた。

「聞いておきます…はい、じゃあ」

電話を切ると里美とニコルは意味深な笑みであいりの言葉を待っていた。

「実家に…来るって…」

「さすが伊坂だわ、ちゃんとあいりの事大事にしてるわね」

ニコルはよしよしとあいりの頭を撫でた。
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