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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
「俺はそなたを行かせぬぞ」
 嘉利が突如としてお亀に襲いかかった。
 そのまま二人でもつれ合うようにして褥の上に倒れ込む。
 嘉利がお亀の前結びになった帯に手を掛けた。
「―」
 お亀の澄んだまなざしが嘉利を見上げている。憐れみでもなく、愛しさでもなく、ただ限りない優しさを込めて瞳が無心に嘉利を見つめていた。
「ええいッ、そなたは、この俺を愚弄するか。そのような澄ました顔をして、心では愚かな男、未練な男よと嘲笑っているのであろうが」
 嘉利が苛立った声を上げ、お亀の襟元に手を掛け、乱暴におしひろげようとする。
 お亀は抵抗もせず、ただ黙って嘉利を受け容れようとしている。何かを諦めきったような静かな女の瞳が、嘉利の心を余計に波立てるようであった。
「許さぬ、俺はそなたを許さぬ! そこまで俺を馬鹿にするとは!」
 嘉利がお亀の首に手を掛ける。両手をお亀の細首に回し、徐々に力を込めてゆく。
「良いか、これが俺を裏切ったそなたへの罰だ。これほどにそなたを求め必要としながらも、俺を愛さなかったそなたへの報復だ」
 その時、嘉利の心をよぎった感情は何だったのか。我が物にならぬのなら、いっそのこと我が手で殺してしまえと思うほどの烈しい愛。我が身を裏切った女への憎しみ、切なさ、やり切れなさ。
 あまりにも烈しい愛は時として憎しみに変わる。
 だが、その刹那、嘉利の心をかすめたのは、深い哀しみと寂寥感であった。
 お亀がこの時、泣き叫んで助けを求めていれば、嘉利の心はまだしも幾ばくかは救われていただろう。泣き縋り、生命乞いをすれば、嘉利はあっさりとお亀を許したはずだ。
 たとえ不甲斐ない男、女に腑抜けていると嘲笑されようと、嘉利はそれほどまでにお亀に惹かれていた。
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