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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
お亀は眼を閉じ、そして、ゆっくり見開いた。
「しかしながら、私は嘉利さまを殿御としてお慕いしてはおりませぬ。そのお人柄をお慕いはしておりましても、一人の女人として殿を愛することはできませぬ」
「つまり、それは、俺を男として見られぬ、愛せぬと―そういうことだな?」
短い沈黙の後、嘉利がポツリと呟く。
「その気持ちはこれから先もずっと変わらぬと申すか。たとえ何があろうと、どれほどの月日を共に過ごそうと、俺たちは男と女として愛し合うことは叶わぬと?」
念を押すような言葉に、お亀は小さく頷いた。
「愚かな、―実に愚かな女だ! たとえ偽りでも俺に惚れていると申せば、その生命が助かるだけでなく、藩主のただ一人の側室として栄耀栄華も思いのままに過ごせるものを」
そんなことを、俗世の栄華を望むような娘ではない。そんな女であるがゆえに、嘉利はお亀を愛したのだ。お亀がそのような甘い言葉で心動かされるような女ではないと判っている嘉利は、空しい想いで言葉だけを連ねているようだった。
「殿を大切にお思い申し上げているからこそ、私は自らお傍を去るのでございます。大切な方に一生嘘をついて、偽りの愛を誓う方がかえって裏切りだと存じますゆえ。殿を欺き奉りながら、私はお傍にはおれませぬ」
しばらく嘉利から声はなかった。
「俺が、この俺がたとえ偽りの愛だとしても、そなたにずっと傍にいて欲しいと申しても、そなたはやはり俺の傍を去るのか?」
ややあって発せられた問いに、お亀は頷いた。
「ゆかせぬ。そなたを手放したりするものか」
ふいに、嘉利が暗い声で呟いた。
「しかしながら、私は嘉利さまを殿御としてお慕いしてはおりませぬ。そのお人柄をお慕いはしておりましても、一人の女人として殿を愛することはできませぬ」
「つまり、それは、俺を男として見られぬ、愛せぬと―そういうことだな?」
短い沈黙の後、嘉利がポツリと呟く。
「その気持ちはこれから先もずっと変わらぬと申すか。たとえ何があろうと、どれほどの月日を共に過ごそうと、俺たちは男と女として愛し合うことは叶わぬと?」
念を押すような言葉に、お亀は小さく頷いた。
「愚かな、―実に愚かな女だ! たとえ偽りでも俺に惚れていると申せば、その生命が助かるだけでなく、藩主のただ一人の側室として栄耀栄華も思いのままに過ごせるものを」
そんなことを、俗世の栄華を望むような娘ではない。そんな女であるがゆえに、嘉利はお亀を愛したのだ。お亀がそのような甘い言葉で心動かされるような女ではないと判っている嘉利は、空しい想いで言葉だけを連ねているようだった。
「殿を大切にお思い申し上げているからこそ、私は自らお傍を去るのでございます。大切な方に一生嘘をついて、偽りの愛を誓う方がかえって裏切りだと存じますゆえ。殿を欺き奉りながら、私はお傍にはおれませぬ」
しばらく嘉利から声はなかった。
「俺が、この俺がたとえ偽りの愛だとしても、そなたにずっと傍にいて欲しいと申しても、そなたはやはり俺の傍を去るのか?」
ややあって発せられた問いに、お亀は頷いた。
「ゆかせぬ。そなたを手放したりするものか」
ふいに、嘉利が暗い声で呟いた。