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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
嘉利の予想に反し、お亀はただひたすら死の瞬間を従容として待っている。自分と同じように愛を返さなければ殺すという理不尽な男の言い分に反論すらせず、嘉利の突きつけた結論を黙って受け容れた。
たとえ殺されたとしても、嘉利の傍にはいられないのだと、偽りの愛を誓い、愛してもいないのに傍に居続けることはできないのだと言う。嘉利を男として愛することはできないにも拘わらず、愛しているふりをすることこそが、嘉利に対する本当の裏切りなのだとも。
恐らく、お亀の言い分は正しいのだろう。
狡猾な女であれば、藩主の愛妾という地位に固執し、嘉利の寵愛を良いことに身体だけは差し出しておきながら、心では嘉利を軽蔑したに違いない。女の身体は権力や金で好きなようにできても、心まではけして自由にできないのだと、嘉利の与える贅沢な暮らしをそこそこに愉しみながら、心の内では嘉利を侮蔑しただろう。
だが、お亀は、そんな器用な生き方はできない。ある意味で、正直すぎる不器用な女だともいえた。
判っている。理性では、もうとっくに判っている。お亀の言っていることは正しいのだと。自らの生命を危険に晒してまで、嘉利に正直な気持ちを伝え去ってゆこうとするのは、お亀が嘉利を誠実に想っているからだ、嘉利の立場を尊重し、その心を大切に考えているからだと。
それなのに、お亀のその優しさが今の嘉利には切なかった。そこまでの誠実さを見せる女を良い加減に解放し、側室という枷から解き放って自由にしてやることが今の嘉利にできる精一杯のことだと判っていながら、お亀の手を放すことができない。
憎まれても良い。嫌われても良い。憐れみでも何でも良いから、傍にいて欲しかった。未練がましい、しつこい男だと思われても、お亀を傍にとどめておきたいと願わずにはいられないのだ。
たとえ殺されたとしても、嘉利の傍にはいられないのだと、偽りの愛を誓い、愛してもいないのに傍に居続けることはできないのだと言う。嘉利を男として愛することはできないにも拘わらず、愛しているふりをすることこそが、嘉利に対する本当の裏切りなのだとも。
恐らく、お亀の言い分は正しいのだろう。
狡猾な女であれば、藩主の愛妾という地位に固執し、嘉利の寵愛を良いことに身体だけは差し出しておきながら、心では嘉利を軽蔑したに違いない。女の身体は権力や金で好きなようにできても、心まではけして自由にできないのだと、嘉利の与える贅沢な暮らしをそこそこに愉しみながら、心の内では嘉利を侮蔑しただろう。
だが、お亀は、そんな器用な生き方はできない。ある意味で、正直すぎる不器用な女だともいえた。
判っている。理性では、もうとっくに判っている。お亀の言っていることは正しいのだと。自らの生命を危険に晒してまで、嘉利に正直な気持ちを伝え去ってゆこうとするのは、お亀が嘉利を誠実に想っているからだ、嘉利の立場を尊重し、その心を大切に考えているからだと。
それなのに、お亀のその優しさが今の嘉利には切なかった。そこまでの誠実さを見せる女を良い加減に解放し、側室という枷から解き放って自由にしてやることが今の嘉利にできる精一杯のことだと判っていながら、お亀の手を放すことができない。
憎まれても良い。嫌われても良い。憐れみでも何でも良いから、傍にいて欲しかった。未練がましい、しつこい男だと思われても、お亀を傍にとどめておきたいと願わずにはいられないのだ。