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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
 天女が婉然と微笑んだ。
 いや、これは違う。先ほどまでの女ではない。先刻までの女は清純な美しさを持っていたが、この女はまるで違う。確かに美しい女には違いないが、眼許に険しさがあって、つり上がった眼がまるで狐のようだ。
 嘉利は昔から、こういう類の女が大嫌いだった。こういう女は自分の美しさを自覚している。自分は誰よりも美しいと、自分の美貌が男を惹きつけることを十分に意識している鼻持ちならない女が多い。
 こんな女は無意識の中に他人を傷つけることが多いものだ。自分は美しいのだと、自分より少しでも容色の劣った同性を見れば、ひそかな優越感に浸り、自分の美しさを誇示しようとする。そんな態度が随分と相手を傷つけていることも知らない、上辺だけはそこそこ美しくとも、中身のない薄っぺらな愚かな女だ。
 自分中心に世界が回っているような気でいるから、他人に対してどこまでも残酷になれる。自分の幸せや成功をまるで天下でも取ったように得意げに吹聴して回る。優しさなど、かけらもない。
 狐面のような女が微笑んでいる。
 微笑みながら、女がひらひらと手で差し招く。
 こちらへおいでというように、嘉利に手を振って見せる。
 厭だ。俺はまだ、お前なんぞについてゆく気はない。嘉利が背を向けようとしたその時、女の顔がグニャリと歪んだ。
 あたかも能面の女(おみな)が般若に変ずるように、美しい面が瞬時に悪鬼のような形相に変わる。白い顔はどす黒く染まり、紅い唇は耳まで裂けニョッキリとした二本の牙が突き出た。細くつり上がっていた両の眼(まなこ)はギョロリと零れ落ちんぼかりに大きく見開き、目玉が飛び出ている。
「お、鬼」
 嘉利は恐怖に戦慄きながら、後ずさる。
 二、三歩後退したところで、みっともなく尻餅をついてしまった。
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