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鈴(REI)~その先にあるものは~
第6章 終章~悠遠~
嘉利は、ついに正気を取り戻すことはなかった。半月近くが経ち、家老矢並頼母他、重臣一同は合議の上、分家筋から前藩主嘉倫の異母弟倫(みち)為(なり)の子万菊丸を迎え、新しい藩主を立てることに決めた。万菊丸は漸く九歳の幼君ではあるが、早くから神童との誉れが高く、学問・武芸においても衆に抜きん出でいると聞く。万菊丸が藩主となった暁は、実父倫為がその後見となることになっている。
お亀と小五郎は永居源一郎の屋敷にひと月近く身を潜めていた。その頃には、お亀は我が身の胎内に新しい生命が宿っていることを確信していた。―お亀は嘉利の子を懐妊していたのだ。
懐妊をはっきりと自覚したその日、お亀は小五郎にそのことを伝えた。その上で、やはり、自分は小五郎の妻にはなれぬと告げたのである。
だが、小五郎は頑として譲らなかった。
他の男の―しかも、小五郎にとっては前妻お香代の敵である嘉利の子を宿していると知りながら、小五郎の傍にいるわけにはゆかない。
お亀が自分の気持ちを話すと、小五郎はきっぱりと言い切った。
―良いのだ、私たちの子として育てよう。
お亀が嘉利と過ごしたのはふた月にも満たない。しかし、その間に、お亀は殆ど毎夜のように嘉利に抱かれた。身ごもっていたとしても不思議もないが、たったそれだけの間で嘉利の子を宿すとは皮肉な話でもあった。
思えば、嘉利とお亀は、つくづく数奇な縁(えにし)の糸で結ばれていたのだろうか。恐らく二人は出逢うべくして出逢い、そして別れた。
お亀は嘉利の子をその身に宿すという宿命(さだめ)を最初からその身に負うていたのだろう。
腹の子の存在は、嘉利から受けた辱めの記憶を呼び覚ますものでもある。が、お亀は最初からこの子を生むつもりであった。
男に烈しく愛されながらも、ついにその男を愛することのできなかったお亀。それでも、嘉利に言ったように、嘉利がお亀にとって大切な人であったことは事実なのだ。
お亀と小五郎は永居源一郎の屋敷にひと月近く身を潜めていた。その頃には、お亀は我が身の胎内に新しい生命が宿っていることを確信していた。―お亀は嘉利の子を懐妊していたのだ。
懐妊をはっきりと自覚したその日、お亀は小五郎にそのことを伝えた。その上で、やはり、自分は小五郎の妻にはなれぬと告げたのである。
だが、小五郎は頑として譲らなかった。
他の男の―しかも、小五郎にとっては前妻お香代の敵である嘉利の子を宿していると知りながら、小五郎の傍にいるわけにはゆかない。
お亀が自分の気持ちを話すと、小五郎はきっぱりと言い切った。
―良いのだ、私たちの子として育てよう。
お亀が嘉利と過ごしたのはふた月にも満たない。しかし、その間に、お亀は殆ど毎夜のように嘉利に抱かれた。身ごもっていたとしても不思議もないが、たったそれだけの間で嘉利の子を宿すとは皮肉な話でもあった。
思えば、嘉利とお亀は、つくづく数奇な縁(えにし)の糸で結ばれていたのだろうか。恐らく二人は出逢うべくして出逢い、そして別れた。
お亀は嘉利の子をその身に宿すという宿命(さだめ)を最初からその身に負うていたのだろう。
腹の子の存在は、嘉利から受けた辱めの記憶を呼び覚ますものでもある。が、お亀は最初からこの子を生むつもりであった。
男に烈しく愛されながらも、ついにその男を愛することのできなかったお亀。それでも、嘉利に言ったように、嘉利がお亀にとって大切な人であったことは事実なのだ。