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鈴(REI)~その先にあるものは~
第2章 友の悲劇~無明~
父の方もまた小男であの面体だから、嫁の来手もないままに三十過ぎまで独り身だった。まぁ、母も父も落ち着くべきところに落ち着いたというのが本当のところではあったが、二人は娘のお亀が見ても羨ましいくらい仲の良い夫婦であった。父は母を労り、母もまた良人を大切にし、共に愛し合い必要とし合っているのがよく判った。
父が亡くなってからの母は、まるで魂をあの世に半分持っていかれてしまったかのようで、二年前にとうとう母までも失ったときはむろん哀しかったけれど、これで母は漸く父の許に逝けたのだと思えば、お亀は心のどこかでホッとするのも否めなかった。父が亡くなってからの母は、それほどに傍で見ている者の方が辛いほどに傷心の日々を送っていた。
もちろん、お亀も母の気を引き立てるように色々と心配りをしたのだが、母の眼には最早、娘ばかりか、何も現実の景色は映っておらず、ただ亡くなった父の面影だけが映じているようであった。
そして、お亀にとっては、幼なじみでもあり、今でもかけがえのなき親友であるお香代とその良人柳井小五郎。この二人もまた、亡き両親に勝るとも劣らぬ仲睦まじい夫婦である。
物心つくかつかぬ頃から十を幾つか過ぎるまで、お亀は夏になると、城下の伯父の家に泊まりがけで遊びにゆくのが日課であった。お香代は柳井の屋敷で下男を務めていた壱助という老人の孫であり、早くにふた親を亡くしたといっていた。その頃から既に伯父はお香代の利発さや機転の利く気性を気に入っている風だった。
夏になって柳井の屋敷に遊びにゆく度に、お香代とお亀は二人で遊んだものだ。あやとりや人形遊びやままごと。少女らしい他愛のない遊びを一日中していても、飽きることがなかった。
父が亡くなってからの母は、まるで魂をあの世に半分持っていかれてしまったかのようで、二年前にとうとう母までも失ったときはむろん哀しかったけれど、これで母は漸く父の許に逝けたのだと思えば、お亀は心のどこかでホッとするのも否めなかった。父が亡くなってからの母は、それほどに傍で見ている者の方が辛いほどに傷心の日々を送っていた。
もちろん、お亀も母の気を引き立てるように色々と心配りをしたのだが、母の眼には最早、娘ばかりか、何も現実の景色は映っておらず、ただ亡くなった父の面影だけが映じているようであった。
そして、お亀にとっては、幼なじみでもあり、今でもかけがえのなき親友であるお香代とその良人柳井小五郎。この二人もまた、亡き両親に勝るとも劣らぬ仲睦まじい夫婦である。
物心つくかつかぬ頃から十を幾つか過ぎるまで、お亀は夏になると、城下の伯父の家に泊まりがけで遊びにゆくのが日課であった。お香代は柳井の屋敷で下男を務めていた壱助という老人の孫であり、早くにふた親を亡くしたといっていた。その頃から既に伯父はお香代の利発さや機転の利く気性を気に入っている風だった。
夏になって柳井の屋敷に遊びにゆく度に、お香代とお亀は二人で遊んだものだ。あやとりや人形遊びやままごと。少女らしい他愛のない遊びを一日中していても、飽きることがなかった。