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鈴(REI)~その先にあるものは~
第2章 友の悲劇~無明~
 後にお香代の伴侶となる相田小五郎は、既にその頃、伯父が道場主を務める柳井道場に通っていた。何でもわずか五歳で伯父にその将来性を認められ、門弟として弟子入りしたのだという。小五郎はお香代とお亀よりは三つ上で、寡黙な少年という印象を受けた。いつも物静かにしていて、だからといって無愛想とか人付き合いが悪いというわけではない。むしろ、人当たりも良く、同年者たちからも年配者からも受けの良いという珍しい子どもだった。
 通常、大人から気に入られる類の子どもは、同じ子どもからは嫌われたり眼の仇にされることが多いものだが、小五郎は不思議なことに、生来、誰をも味方につけることのできる不思議な力を持っているようだった。自分たちよりわずかに三つ上なだけというのが信じられぬほど老成した雰囲気は、だが、お亀にはむしろ痛々しく感じられた。
 大人ばかりの中で、無理をしているというわけでもなく、少しの物怖じもせずに堂々として存在している。控えめでありながら、どこか目立ち、圧倒的な存在感を醸し出す。堂々としていても、当人が無理をしたり肩肘張って大人ぶっているわけでもない。それなのに、分別くさい顔で座っている小五郎が、お亀には何故か痛々しくてならなかった。
 今から思えば、小五郎が子どもらしい無邪気な笑みを浮かべているところを、お亀は一度として見たことがない。笑ってはいても、いつも何かを悟ったような、諦めたような物静かな笑みをゆったりと浮かべているだけだった。多分、あの子どもらしくない笑顔が、〝痛い〟と感じてしまったのだろう。あの笑顔は、けして心から弾けるように笑ったものではなかったからだ。
 物静かな少年であった小五郎と、お亀やお香代たちの接点は少なくとも、その時点ではまだなかった。もっとも、お亀が伯父の許で過ごすのは、夏のひと月ほどにすぎず、平素からずっと伯父の許にいたお香代は、平素から道場に通ってくる小五郎と顔を合わせることはしょっ中だったろう。
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