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鈴(REI)~その先にあるものは~
第2章 友の悲劇~無明~
 十三、四になってから、お亀も大きくなり、夏に伯父の家に遊びにゆくこともなくなった。そして、お香代が正式に伯父の養女になったのもその頃のことだ。それから一、二年の間に、お香代と小五郎の間は急速に接近したらしい。長らく便りのなかった友から、小五郎と祝言を挙げることになったと知らされたのは、伯父の家に行かなくなってから二年ほど後のことだ。
 実は、お香代が小五郎にあの頃からひそかに想いを寄せていたことを、お亀は知っていた。他ならぬお香代から打ち明けられたのである。それゆえ、お香代の一途な恋が実り、晴れて惚れた男と結ばれることを心から歓んだ。祝言にこそ行けなかったけれど、すぐにお祝いの文と、心を込めて選んだ蒔絵の櫛―つがいの鶴が舞う朱塗りのそれは、村に一軒しかない小間物屋で買った―を送った。
 が。友の初恋が実った日は、お亀のほのかな思慕がうたかのごとく潰えた瞬間でもあったのである。何しろ、もう五年も前のことだ。しかも、まだ恋の何たるかも自覚できぬ十三の少女のことゆえ、その頃、我が身が真に小五郎に惚れていたのかどうか、今となっては、はきとは判らない。
 ただ、お香代から小五郎への恋心を打ち明けられたあの日。何か己れの心にぽっかりと大きな穴が空いてしまったような心もちがしたことだけは確かだ。もしかしたら、あれは淋しさのせいだったのかもしれない。お亀の心は小五郎という存在を失い、その存在を失った穴に淋しさという名の風が吹き抜けた―。
 だが、お亀の想いは本当にごく淡いものであったし、お香代が小五郎に見せるひたむきなまでの恋心とは比べようもなかった。それに、小五郎だって、月とスッポンの二人のどちらを選ぶかと問われれば、間違いなくお香代を選ぶだろう。お亀のような娘が所詮はお香代に太刀打ちできるはずもなく、同じ土俵で勝負しようと考えることさえ笑い話にされてしまうか、呆れられるのが関の山。むしろ、この想いは口になどせず、闇から闇へとひっそりと忘れられる方がよほど良いのだ。
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