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鈴(REI)~その先にあるものは~
第2章 友の悲劇~無明~
お亀は急き込むように訊ねた。
「お香代さまはご息災でいらっしゃいましょうか。ここ三月(みつき)ほどは便りもなく、どうしていらっしゃるのかとご案じ申し上げておりました」
「そのことで、お話があります」
小五郎は更に声を低めた。
「少しばかりお邪魔致しても、よろしいでしょうか」
お亀が頷くと、小五郎は周囲に鋭い一瞥を投げ、家の内へと身を滑らせた。玄関といっても、小さな屋敷のことだ、武家のように式台があるわけでもなく、ただ煮炊きのできる多少は広さのある土間がひろがっているだけのことだ。
小五郎は三和土に立ったままで、口早に告げた。
「香代は―妻は三日前、亡くなりました」
「え―」
刹那、お亀は言葉を失った。
先刻、己れが耳にした言葉が俄には飲み込めず、再び訊き返す。
「今、今、何と仰せにございましたか? お香代ちゃんが亡くなったと?」
いつしか〝お香代さま〟ではなく、昔のように〝お香代ちゃん〟と呼んでいた。
「さようにごさる。香代は三日前の朝、亡くなり申した」
低い声で応えた小五郎に、お亀は掴みかからんばかりに矢継ぎ早に訊ねた。
「何故に、何故に、お香代ちゃんが亡くなったのですか? 病気か何か、そのような突然の不幸があったのでございますか」
だが、心のどこで違う、そんなことがあるはずがないと、もう一人の自分が告げていた。
三ヵ月前までは、ひと月に一、二度は届いていた文がふっつりと絶え、音沙汰がなかった。どうしていたのかと案じてはいたけれど、よもや死ぬほどの病にかかっていたとは思えない。
何より、病死にせよ納得できる死に方であれば、このような夜更けにお香代の良人である小五郎自らがお香代の死を知らせにはこないだろう。
「お香代は―身ごもっていたようにございました。覚悟の上の自害にござる」
予期せぬ言葉が小五郎から飛び出し、お亀は眼を見開いた。
「お香代さまはご息災でいらっしゃいましょうか。ここ三月(みつき)ほどは便りもなく、どうしていらっしゃるのかとご案じ申し上げておりました」
「そのことで、お話があります」
小五郎は更に声を低めた。
「少しばかりお邪魔致しても、よろしいでしょうか」
お亀が頷くと、小五郎は周囲に鋭い一瞥を投げ、家の内へと身を滑らせた。玄関といっても、小さな屋敷のことだ、武家のように式台があるわけでもなく、ただ煮炊きのできる多少は広さのある土間がひろがっているだけのことだ。
小五郎は三和土に立ったままで、口早に告げた。
「香代は―妻は三日前、亡くなりました」
「え―」
刹那、お亀は言葉を失った。
先刻、己れが耳にした言葉が俄には飲み込めず、再び訊き返す。
「今、今、何と仰せにございましたか? お香代ちゃんが亡くなったと?」
いつしか〝お香代さま〟ではなく、昔のように〝お香代ちゃん〟と呼んでいた。
「さようにごさる。香代は三日前の朝、亡くなり申した」
低い声で応えた小五郎に、お亀は掴みかからんばかりに矢継ぎ早に訊ねた。
「何故に、何故に、お香代ちゃんが亡くなったのですか? 病気か何か、そのような突然の不幸があったのでございますか」
だが、心のどこで違う、そんなことがあるはずがないと、もう一人の自分が告げていた。
三ヵ月前までは、ひと月に一、二度は届いていた文がふっつりと絶え、音沙汰がなかった。どうしていたのかと案じてはいたけれど、よもや死ぬほどの病にかかっていたとは思えない。
何より、病死にせよ納得できる死に方であれば、このような夜更けにお香代の良人である小五郎自らがお香代の死を知らせにはこないだろう。
「お香代は―身ごもっていたようにございました。覚悟の上の自害にござる」
予期せぬ言葉が小五郎から飛び出し、お亀は眼を見開いた。