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鈴(REI)~その先にあるものは~
第2章 友の悲劇~無明~
「えっ、それでは、お香代ちゃんは身重の身体で自ら生命を絶ったと―」
悲鳴のような声で叫んだ。
「そんなはずがありません。それは何かの間違いにございましょう。小五郎さま、お香代ちゃんは誰よりも何よりも、赤ちゃんを待ち望んでいたのですよ? そのお香代ちゃんが小五郎さまのお子さまを宿しながら、自害するなぞありようはずがございませぬ」
夢中で首を振るお亀に、小五郎が苦渋に満ちた声で応えた。
「それは、むろん、それがしも存じておりまする。お香代が私には内緒で子宝を授かることのできるという寺や神社に詣でておったこともすべて存じておりました。されど、私には言い辛うて黙っておるのだろうと察し、敢えてそのことについては何も申しませんでした」
「それでは、何故! 何故にお香代ちゃんが小五郎さまの御子を折角授かりながら、そのようなことを」
お亀が唇を戦慄かせると、小五郎は緩く首を振った。
「違うのです」
「何が違うと仰せなのです?」
勢い詰問口調になってしまうのは致し方ない。
「三月ほど前のことでした。お香代が野苺を摘みにゆくと屋敷を出たまま、半日以上も戻らなかったことがあるのです」
小五郎は唇を噛みしめ、押し殺した声で続けた。
「我が屋敷は城下にあるとは申せ、殆ど外れに位置し、森も近うござります。女の脚でもせいぜいが四半刻もあれば、辿り着けまする。常であれば、昼前に屋敷を出て、一刻ほど後には帰ってきておりました。さりながら、あの日は違った」
お香代は、半日経っても戻らなかった。小五郎はあまりに帰宅が遅いため、稽古を途中で師範代である兄相田久磨に任せ、一人馬で様子を見に出かけた。森までひと駆け、小五郎が愛馬の鹿毛を走らせると、森の入り口で向こうからふらふらと歩いてくる女と出くわした。
悲鳴のような声で叫んだ。
「そんなはずがありません。それは何かの間違いにございましょう。小五郎さま、お香代ちゃんは誰よりも何よりも、赤ちゃんを待ち望んでいたのですよ? そのお香代ちゃんが小五郎さまのお子さまを宿しながら、自害するなぞありようはずがございませぬ」
夢中で首を振るお亀に、小五郎が苦渋に満ちた声で応えた。
「それは、むろん、それがしも存じておりまする。お香代が私には内緒で子宝を授かることのできるという寺や神社に詣でておったこともすべて存じておりました。されど、私には言い辛うて黙っておるのだろうと察し、敢えてそのことについては何も申しませんでした」
「それでは、何故! 何故にお香代ちゃんが小五郎さまの御子を折角授かりながら、そのようなことを」
お亀が唇を戦慄かせると、小五郎は緩く首を振った。
「違うのです」
「何が違うと仰せなのです?」
勢い詰問口調になってしまうのは致し方ない。
「三月ほど前のことでした。お香代が野苺を摘みにゆくと屋敷を出たまま、半日以上も戻らなかったことがあるのです」
小五郎は唇を噛みしめ、押し殺した声で続けた。
「我が屋敷は城下にあるとは申せ、殆ど外れに位置し、森も近うござります。女の脚でもせいぜいが四半刻もあれば、辿り着けまする。常であれば、昼前に屋敷を出て、一刻ほど後には帰ってきておりました。さりながら、あの日は違った」
お香代は、半日経っても戻らなかった。小五郎はあまりに帰宅が遅いため、稽古を途中で師範代である兄相田久磨に任せ、一人馬で様子を見に出かけた。森までひと駆け、小五郎が愛馬の鹿毛を走らせると、森の入り口で向こうからふらふらと歩いてくる女と出くわした。