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鈴(REI)~その先にあるものは~
第2章 友の悲劇~無明~
 お香代の亡骸を検めた医者は、小五郎に告げた。
―残念なことをなされましたな。奥方は身ごもっておられたようにございますぞ。丁度三月に入ったばかりの頃でござろうて。はてさて、よほどお心にかかるお悩みでもござったか。
 老医者は沈痛な面持ちで嘆息したが、この時、小五郎は医者の言葉が耳奥でこだまするばかりだった。
 妊娠三ヵ月であったというのであれば、小五郎の子ということも考えられた。しかし。
 身ごもった当人であるお香代には、そも腹の子の父親が誰であるか―容易に想像がついたのだろう。否、もしかしたら、お香代自身、腹の子が誰の種であるか、自信がなかったのかもしれない。三月前といえば、お香代があられもない姿で森から帰還した日と重なる。
 あの頃、身ごもったのだとすれば、お香代にも父親が誰であるか―良人なのか、はたまた、行きずりのお香代を森で手込めにしたいずこかの男か判じかねたのだろう。
 お香代にしてみれば、漸く授かった子である。良人との間の子であればと何より願ったに相違ないが、現に小五郎との間には三年もの間、子ができなかったのだ。それが、行きずりの男に犯されてすぐに身ごもったとなれば、その腹の子の父が小五郎であると断言できなかったのも仕方のないことだろう。
「私が迂闊でした。私はあの日のことをお香代に訊ねない方が良いのだと勝手に決め込み、黙っておりました。しかしながら、果たして、お香代にとって、それが本当に良かったのかどうか。もし私が問えば、お香代は私に真実を話せたかもしれない。そうすれば、お香代の心の痛みを理解し、二人で共に辛い試練を乗り越えることもできたかもしれないのに。私は真実から眼を背けようとした―、もしかしたら、私自身、自分の妻が他の男に辱めを受けたという事実を認めたくなかった―なかったことにしたかったのかもしれません。妻の心の傷に触れないためなどと都合の良い言い訳をしながら、私はただ事実から逃げようとした卑怯な男なのです。私の愚かさが、お香代を死なせてしまった」
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