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鈴(REI)~その先にあるものは~
第2章 友の悲劇~無明~
藩主の側近だという尾野晋三郎という男は、二十四、五の陰のある男だった。藩主と同年であり、乳母子、つまり乳兄弟に当たることから、幼い頃より側小姓として藩主木檜嘉利(よしとし)の側に上がり、現在も重用されている。頭の切れる男だと聞くが、その反面、嘉利の意を叶えるためならば情け容赦なく生きている犬猫でも藩主の面前で殺す冷酷な男だともいう。
馬鹿げた藩主の意を諫めるどころか、すんなりと叶えてやる側近も側近だが、そのようなことを平然と命ずる藩主もまた気違い沙汰としか思えない。
藩主嘉利の残虐非道さは藩内でも有名で、罪のない犬猫だけではなく、時には生きた人間―農民などを連れてきては、腰巾着の尾野晋三郎に試し斬りをさせ、自分は庭先でそれを面白そうに見物している。そのため、〝畜生公〟と陰で呼ばれ、怖れられているというのが実状であった。
嘉利の女好きはまた有名な話でもある。殊に生娘を抱くのが好みとかで、城中の腰元や婢女(はしため)だけでは飽きたらず、お忍びで城下に出ては若い娘や年端もゆかぬ少女をさらい、手込めにすることもしばしばだとか。
時には近隣の村に触れを出し、生娘ばかりを集めて献上させることもある。寝所に招いても、伽をさせるのはせいぜいが一、二度ほどで、後は庭で尾野晋三郎に試し切りさせるか、その娘の運が良ければ、身柄だけは無事に親許に返すこともある。中には差し出す娘がおらず、既に許婚者がいて秋には祝言の控えた娘までを強引に召し上げたという話まであった。
それほどまでに無体なことをして召し上げても、直に飽きてしまい、二、三度伽をさせただけで捨て、長続きしても十日が良いところだ。
許婚者のいた娘は珍しく気に入り、いつもよりは長く側に置いていた。後にその娘は半月後に親許に返されたが、既に藩主の子を宿していた。祝言は予定どおり挙げたものの、結局、生まれた子の出生が元で諍いが絶えず夫婦別れとなり、出戻った娘は赤児を殺し、自らも首を括った。思えば、お香代もこれと似たような悲劇であった。
馬鹿げた藩主の意を諫めるどころか、すんなりと叶えてやる側近も側近だが、そのようなことを平然と命ずる藩主もまた気違い沙汰としか思えない。
藩主嘉利の残虐非道さは藩内でも有名で、罪のない犬猫だけではなく、時には生きた人間―農民などを連れてきては、腰巾着の尾野晋三郎に試し斬りをさせ、自分は庭先でそれを面白そうに見物している。そのため、〝畜生公〟と陰で呼ばれ、怖れられているというのが実状であった。
嘉利の女好きはまた有名な話でもある。殊に生娘を抱くのが好みとかで、城中の腰元や婢女(はしため)だけでは飽きたらず、お忍びで城下に出ては若い娘や年端もゆかぬ少女をさらい、手込めにすることもしばしばだとか。
時には近隣の村に触れを出し、生娘ばかりを集めて献上させることもある。寝所に招いても、伽をさせるのはせいぜいが一、二度ほどで、後は庭で尾野晋三郎に試し切りさせるか、その娘の運が良ければ、身柄だけは無事に親許に返すこともある。中には差し出す娘がおらず、既に許婚者がいて秋には祝言の控えた娘までを強引に召し上げたという話まであった。
それほどまでに無体なことをして召し上げても、直に飽きてしまい、二、三度伽をさせただけで捨て、長続きしても十日が良いところだ。
許婚者のいた娘は珍しく気に入り、いつもよりは長く側に置いていた。後にその娘は半月後に親許に返されたが、既に藩主の子を宿していた。祝言は予定どおり挙げたものの、結局、生まれた子の出生が元で諍いが絶えず夫婦別れとなり、出戻った娘は赤児を殺し、自らも首を括った。思えば、お香代もこれと似たような悲劇であった。