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鈴(REI)~その先にあるものは~
第3章 恋の始まり~辿逢(たどりあう)~
恋の始まり
~辿逢(たどりあう)~
しんと水を打ったような静寂の中、そこに居並ぶすべての人々の視線がある一人に釘付けになっている。
あまたの好奇と注目を一身に集め、少年は瞳を瞑ったまま、静かに跪く。まずは、はるか前方、特別にしつらえられた御座所に座る藩主に向かって拝礼。更に藩主を取り巻く家老矢並(やなみ)頼母(たのも)ら初め重臣たちにも軽く目礼し、改めて向かい合う挑戦者に頭を下げた。
「それでは、勝負を始める」
審判役と勝負の結果を見届ける役目を担うのは、藩主木檜嘉利の懐刀とも云われる尾野晋三郎である。
「両者、始められよ」
晋三郎の言葉を合図とするかのように、少し離れて対峙する両者がすっと立ち上がった。
勝負は真剣を用いることが慣わしとなっている。優勝を決める決勝戦までは木刀を用いるが、最後のこの藩主御前で行われる試合だけは、代々、真剣が使われてきた。十年に一度木檜藩をあげて大々的に行われるこの試合は、木檜藩ではちょっとした出来事である。
何せよ、この泰平の世で名もない者が出世を遂げ、藩主のお眼に止まるには、このような御前試合で勝ち抜くことは何にも勝る好機といえた。
もっとも、現在の藩主木檜嘉利は十四歳で藩主の座についてからというもの、忌まわしき噂が後を絶たない〝畜生公〟であり、この藩主の前で栄えある優勝を遂げたからといって、別段何が変わるとも思えない。かえって目立つことで、畜生公と呼ばれる藩主に睨まれ試し切りの標的にでもされたら、たまったものではない。
というわけで、前回の御前試合のときよりは応募者も格段に少なく、盛り上がりにも欠けている。木檜藩は二万石の小藩ではあるが、実際の石高は数万石ともいわれ、よく肥え水にも恵まれた豊かな土地柄は実りも多く、内証は豊かだと囁かれている。その藩内の地方毎にまずは予選が行われ、そこで勝ち抜いた者たちが中央、つまり城下で行われる本試合に進むことになるのだ。
~辿逢(たどりあう)~
しんと水を打ったような静寂の中、そこに居並ぶすべての人々の視線がある一人に釘付けになっている。
あまたの好奇と注目を一身に集め、少年は瞳を瞑ったまま、静かに跪く。まずは、はるか前方、特別にしつらえられた御座所に座る藩主に向かって拝礼。更に藩主を取り巻く家老矢並(やなみ)頼母(たのも)ら初め重臣たちにも軽く目礼し、改めて向かい合う挑戦者に頭を下げた。
「それでは、勝負を始める」
審判役と勝負の結果を見届ける役目を担うのは、藩主木檜嘉利の懐刀とも云われる尾野晋三郎である。
「両者、始められよ」
晋三郎の言葉を合図とするかのように、少し離れて対峙する両者がすっと立ち上がった。
勝負は真剣を用いることが慣わしとなっている。優勝を決める決勝戦までは木刀を用いるが、最後のこの藩主御前で行われる試合だけは、代々、真剣が使われてきた。十年に一度木檜藩をあげて大々的に行われるこの試合は、木檜藩ではちょっとした出来事である。
何せよ、この泰平の世で名もない者が出世を遂げ、藩主のお眼に止まるには、このような御前試合で勝ち抜くことは何にも勝る好機といえた。
もっとも、現在の藩主木檜嘉利は十四歳で藩主の座についてからというもの、忌まわしき噂が後を絶たない〝畜生公〟であり、この藩主の前で栄えある優勝を遂げたからといって、別段何が変わるとも思えない。かえって目立つことで、畜生公と呼ばれる藩主に睨まれ試し切りの標的にでもされたら、たまったものではない。
というわけで、前回の御前試合のときよりは応募者も格段に少なく、盛り上がりにも欠けている。木檜藩は二万石の小藩ではあるが、実際の石高は数万石ともいわれ、よく肥え水にも恵まれた豊かな土地柄は実りも多く、内証は豊かだと囁かれている。その藩内の地方毎にまずは予選が行われ、そこで勝ち抜いた者たちが中央、つまり城下で行われる本試合に進むことになるのだ。