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鈴(REI)~その先にあるものは~
第3章 恋の始まり~辿逢(たどりあう)~
嘉利がこんな眼をするときは、大抵はろくなことにならない―と、長年の勘でこの老練な筆頭家老は熟知していた。
「ええい、相変わらず煩い奴め。その皺首と胴体が真っ二つになりたくなかったら、そろそろその小うるさい口を閉じることだな」
「―」
頼母は最早、何も言えず蒼い顔で押し黙るよりほかない。
その時、審判役の晋三郎の声が轟いた。
「勝負あった。御前にてのこの勝負は、柳井亀之助が勝ち取ったり」
見れば、亀之助がついに陣右衛門の懐に飛び込み、決定打を打ち込んだ瞬間だった。
ふいをつかれた陣右衛門の持つ刀が勢い余って跳ねあげられ、飛ぶ。
刀は庭先に落ちて、転がった。
陣右衛門がガクリと膝をついた。
うなだれる陣右衛門に、少年が近付く。
彼は自分よりはるかに大きな大男の手を取ると、立ち上がらせた。
「大事ござりませぬか。身共のような未熟者、若輩者に最後までお相手下さり、ありがとう存じました。何よりの勉強とあいなりましてございます」
敗者に向かって深々と一礼をした少年に、見物席が更に湧く。
「良いぞ。よっ、柳井幹之進の再来!」
「良いじゃないか。勝っても、少しも驕るところのないその謙虚さが良い」
顔を見合わせて頷く面々の前、負けた陣右衛門は照れ臭そうに肩をすくめ、自分を打ち負かした小柄な少年の肩を叩いた。
「いや、なかなか見事なものだ。いずれの道場で修業なさったものか、是非お伺いしたい」
少年が何か応えようとする前に、藩主の御座所から声がかかった。
晋三郎が御座所に進み寄り、藩主からの言葉を伺う。
ほどなく家老矢並頼母が両名の許にやってきた。少年と陣右衛門はほぼ同時にその場に膝をつく。
「ええい、相変わらず煩い奴め。その皺首と胴体が真っ二つになりたくなかったら、そろそろその小うるさい口を閉じることだな」
「―」
頼母は最早、何も言えず蒼い顔で押し黙るよりほかない。
その時、審判役の晋三郎の声が轟いた。
「勝負あった。御前にてのこの勝負は、柳井亀之助が勝ち取ったり」
見れば、亀之助がついに陣右衛門の懐に飛び込み、決定打を打ち込んだ瞬間だった。
ふいをつかれた陣右衛門の持つ刀が勢い余って跳ねあげられ、飛ぶ。
刀は庭先に落ちて、転がった。
陣右衛門がガクリと膝をついた。
うなだれる陣右衛門に、少年が近付く。
彼は自分よりはるかに大きな大男の手を取ると、立ち上がらせた。
「大事ござりませぬか。身共のような未熟者、若輩者に最後までお相手下さり、ありがとう存じました。何よりの勉強とあいなりましてございます」
敗者に向かって深々と一礼をした少年に、見物席が更に湧く。
「良いぞ。よっ、柳井幹之進の再来!」
「良いじゃないか。勝っても、少しも驕るところのないその謙虚さが良い」
顔を見合わせて頷く面々の前、負けた陣右衛門は照れ臭そうに肩をすくめ、自分を打ち負かした小柄な少年の肩を叩いた。
「いや、なかなか見事なものだ。いずれの道場で修業なさったものか、是非お伺いしたい」
少年が何か応えようとする前に、藩主の御座所から声がかかった。
晋三郎が御座所に進み寄り、藩主からの言葉を伺う。
ほどなく家老矢並頼母が両名の許にやってきた。少年と陣右衛門はほぼ同時にその場に膝をつく。