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鈴(REI)~その先にあるものは~
第3章 恋の始まり~辿逢(たどりあう)~
 その日から二日が経った。
 その夜、お亀は突如として牢から引き出された。城内の地下牢から連れ出され、城の奥まった場所まで連行されたお亀は湯浴みをさせられた。身体をきれいにした後、髪までかれいに梳られ、薄化粧まで施され白い着流しの小袖姿で案内されたのは、長い廊下を歩いた先の座敷だった。
 銀の月が清(さや)かな光を放つ夜だった。お亀は唇を噛みしめながら、その場に端座していた。自分が何故、何のためにここに連れてこられたのかを、彼女は理解していなかった。ただここで最期の瞬間を迎えるのだ―と考えて疑っていなかったのである。
 迂闊だった、と自分でも思わずにはいられない。お亀は少女時代から剣聖と謳われた伯父柳井幹之進から剣を教わってきた。
 ゆえに、剣の腕には自分でもそこそこ自信はあった。そんじょそこらの柔な男よりは勝てると思っていた。そう、たとえ誰に負けても、あの畜生公と異名を取る殿さまにだけは勝てると信じていたのだ。
 ところが、あの体たらくはどうだろう! 木檜嘉利はお亀が考えていた以上に、いや、全く考えていなかった遣い手であった。お亀は曲がりなりにも藩内の予選を勝ち抜き、歴戦の勇者たちを打ち負かして御前試合の場に立ったのだ。たとえ決勝戦までゆかずとも、予選を勝ち抜いて本戦に出ることができただけでも、はやそれで腕に憶えのある者だと判る。それほどの難易度の高い試合でもあった。
 あの門屋陣右衛門というのもかなりの遣い手であったが、お亀には正直すぎる剣だと思えた。いわば、あの陣右衛門という男が、それだけ真っすぐな気性の持ち主であるということも判る。
―剣は人なり。
 伯父はかつてよく、そう言っていた。
 陣右衛門の剣は立つが、策略のない剣だ。つまり、あの男は剛の者ではあるが、策を弄する剣の技を扱うことはできない。
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