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鈴(REI)~その先にあるものは~
第3章 恋の始まり~辿逢(たどりあう)~
 物心ついた頃から、お亀は夏になって伯父の屋敷に滞在する度、稽古をつけて貰った。自分よりはるかに年上の、しかも屈強な男たちに混じり、剣の修練に励んだ。
 夏が終わって村に帰っても、一人、庭で黙々と素振りの稽古に余念がなかった。お亀の剣は〝活人剣〟だ。それは、昔、剣の師匠でもある伯父から受けた教えでもある。
―剣とは人の生命を奪うものではなく、己れの身を守り、人を活かすためのものだ。
 というのが伯父の持論であった。
 だから、お亀も他人の生命を奪うような剣は使わない。
 しかし、あの男―畜生公と畏怖される嘉利の剣は違った。
 あの気迫、間の取り方の絶妙さ。打ち込みの烈しさは並ではない。嘉利が本気を出せば、小五郎でさえ、いや、もしかしたら亡き伯父でさえ互角か、悪くて負けるかもしれない。それほどの遣い手であると見た。
 天才的な閃きというのか、要するに剣技の道においては天才と呼べるだけの器量を持つ男だと思った。
 幼い頃は自分より年上の少年たちを次々に打ち負かしていたお亀だったが、やはり力や体格の差はいかんともしがたい。成長するにつれ、女性らしい華奢な体軀となり、幾ら本気でぶつかっても力の差でわずかずつ押されるようになった。ゆえに、お亀は体力の点では劣る己れが勝ち得るすべとして、守りよりも攻めの剣を心がけた。
 相手に押されて引くばかりでは、いずれ体力が続かず、力で負けてねじ伏せられてしまう。だが、まだ余力がある段階で押して押してゆけば、わずかなりとも勝ちが期待できる。
 先日の御前試合では、その点では思うような闘いができなかった。陣右衛門がひたすら打ち込んでくるため、それを防御するのに精一杯で、自分から攻め込むだけの余力がなかったのだ。が、後半になって陣右衛門に油断という隙が生じたため、そこをついた。
 後半になって、あそこまで盛り返して相手を押しの一手で負かすことができたのは幸運であったといえよう。もう少し長引けば、体力的にお亀の方に限界が来ていただろう。
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