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鈴(REI)~その先にあるものは~
第3章 恋の始まり~辿逢(たどりあう)~
お亀は弾かれたように面を上げた。
白い着流し姿の嘉利がつかつかと部屋に入ってくる。突如として現れた男を、お亀は茫然として見つめた。
「あなたは―」
お亀は眼を見開いた。
何故、この男がここにいるのか判らない。
嘉利が近寄ってくると、口の端を歪めた。
「随分と愕いているようだな」
呟くと、いきなり顎に手をかけてクイと顔を持ち上げられた。
冷ややかなまなざし。酷薄そうに歪められた口許。射貫くように自分を見下ろしてくる男を、お亀はこの時、初めて怖いと思った。
剣の試合で対峙するのであれば、これほどの恐怖は感じなかったろう。たとえ負けたとしても、正々堂々と自分の気の済むように真正面から闘い、剣士として潔く散ることができるはずだ。
だが、今のお亀はあまりにも無防備すぎた。
蛇のように底光りのする眼を見ている中に、我知らず身体が震えてきた。
「ホウ、あれほど威勢の良い啖呵を切り、俺に説教までしておきながら、どうした? 今夜は弱気だな。どうした、俺が怖いのか」
面白そうに言う嘉利に、お亀はキッとして言った。
「いいえ、私はあなたなど怖くはありません。さ、殺すなら早い中にさっさと殺しなさい。私を生かしておけば、また何をするか判りませんよ。あなたの生命を狙うかもしれない」
「こいつは良い。説教の次は、今度は俺に命令するときたか」
嘉利は低い声で笑いながら、お亀にグイと顔を近付けた。
「だが、気の強い女は、俺は嫌いではない。少なくとも、世を儚んで自ら死ぬような後ろ向きな女よりはよほど良い」
それが、お香代のことを暗に指しているのだと判り、お亀は唇を噛んだ。
「よくもそのようなことが言えますね。自分が好き放題に辱め、絶望の淵に追い込んでおきながらのその科白。あなたのような方を恥知らずというのです。あなたには良心というものがないのですか?」
と、嘉利がプッと吹き出した。何がおかしいのか、狂ったように声を上げて笑っている。
地に這うような声でひたすら笑うその姿は不気味でさえあった。
白い着流し姿の嘉利がつかつかと部屋に入ってくる。突如として現れた男を、お亀は茫然として見つめた。
「あなたは―」
お亀は眼を見開いた。
何故、この男がここにいるのか判らない。
嘉利が近寄ってくると、口の端を歪めた。
「随分と愕いているようだな」
呟くと、いきなり顎に手をかけてクイと顔を持ち上げられた。
冷ややかなまなざし。酷薄そうに歪められた口許。射貫くように自分を見下ろしてくる男を、お亀はこの時、初めて怖いと思った。
剣の試合で対峙するのであれば、これほどの恐怖は感じなかったろう。たとえ負けたとしても、正々堂々と自分の気の済むように真正面から闘い、剣士として潔く散ることができるはずだ。
だが、今のお亀はあまりにも無防備すぎた。
蛇のように底光りのする眼を見ている中に、我知らず身体が震えてきた。
「ホウ、あれほど威勢の良い啖呵を切り、俺に説教までしておきながら、どうした? 今夜は弱気だな。どうした、俺が怖いのか」
面白そうに言う嘉利に、お亀はキッとして言った。
「いいえ、私はあなたなど怖くはありません。さ、殺すなら早い中にさっさと殺しなさい。私を生かしておけば、また何をするか判りませんよ。あなたの生命を狙うかもしれない」
「こいつは良い。説教の次は、今度は俺に命令するときたか」
嘉利は低い声で笑いながら、お亀にグイと顔を近付けた。
「だが、気の強い女は、俺は嫌いではない。少なくとも、世を儚んで自ら死ぬような後ろ向きな女よりはよほど良い」
それが、お香代のことを暗に指しているのだと判り、お亀は唇を噛んだ。
「よくもそのようなことが言えますね。自分が好き放題に辱め、絶望の淵に追い込んでおきながらのその科白。あなたのような方を恥知らずというのです。あなたには良心というものがないのですか?」
と、嘉利がプッと吹き出した。何がおかしいのか、狂ったように声を上げて笑っている。
地に這うような声でひたすら笑うその姿は不気味でさえあった。