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鈴(REI)~その先にあるものは~
第4章 露草~呼応~
露草
~呼応~
お亀は先刻から、庭にずっと立ち尽くしていた。
もうかれこれ四半刻にはなるだろうか。
お亀に与えられたのは木檜城の奥御殿の一角―、お亀がひと月前の夜、初めて藩主嘉利に抱かれたあの部屋であった。どうやら、あのふた間続きの座敷がそのままお亀の居室になったというよりは、元からそうであったらしい。
よくよく見れば、いかにも女性の住まいらしく瀟洒な飾り付けがされており、美々しい蒔絵の調度品なども備え付けられている。
お亀は帯の間に挟んである鈴をそっと捕り出した。ひと月前、嘉利に取り上げられ、投げ捨てられてしまったが、朝、嘉利が表へ帰った後、すぐに拾って大切に持っていたのだ。
これは、小五郎から託されたものであり、亡き友のたった一つの形見、お香代を偲ぶよすがであった。
お亀は鈴を耳許で小さく揺らす。
チリチリと愛らしい音色を聞く度に、心が洗い流されてゆくような心もちがするのだった。
我が身が厭わしいと思う。夜毎、嘉利は寝所を訪れ、お亀を抱く。どれほど気に入った女でも、数日ごと、しかも二、三度閨に召せばおしまいと云われる嘉利が何を思ったか、お亀だけは側から放さなかった。
嘉利の愛撫は執拗で、容赦がない。ひと晩中、責め立てられ、朝には立てないほど苛まれることも再々であった。それでも、嘉利の意に従わなければならず、嘉利の命ずるがままに脚をひらかなければならない。どんなに恥ずかしい姿態をするようにと言われても、屈辱的なことをさせられても、厭とは言えないのだ。
嘉利に触れられる度、お亀は自分が穢れてゆくような気がしてならない。身体だけでなく心までがどす黒く濁り、穢れてしまってゆくような。男に嬲り尽くされ、慰みものにされる自分が厭で情けなくて、気が狂いそうになる時、この鈴の音を聞くと、少しだけ心が軽やかなる。
~呼応~
お亀は先刻から、庭にずっと立ち尽くしていた。
もうかれこれ四半刻にはなるだろうか。
お亀に与えられたのは木檜城の奥御殿の一角―、お亀がひと月前の夜、初めて藩主嘉利に抱かれたあの部屋であった。どうやら、あのふた間続きの座敷がそのままお亀の居室になったというよりは、元からそうであったらしい。
よくよく見れば、いかにも女性の住まいらしく瀟洒な飾り付けがされており、美々しい蒔絵の調度品なども備え付けられている。
お亀は帯の間に挟んである鈴をそっと捕り出した。ひと月前、嘉利に取り上げられ、投げ捨てられてしまったが、朝、嘉利が表へ帰った後、すぐに拾って大切に持っていたのだ。
これは、小五郎から託されたものであり、亡き友のたった一つの形見、お香代を偲ぶよすがであった。
お亀は鈴を耳許で小さく揺らす。
チリチリと愛らしい音色を聞く度に、心が洗い流されてゆくような心もちがするのだった。
我が身が厭わしいと思う。夜毎、嘉利は寝所を訪れ、お亀を抱く。どれほど気に入った女でも、数日ごと、しかも二、三度閨に召せばおしまいと云われる嘉利が何を思ったか、お亀だけは側から放さなかった。
嘉利の愛撫は執拗で、容赦がない。ひと晩中、責め立てられ、朝には立てないほど苛まれることも再々であった。それでも、嘉利の意に従わなければならず、嘉利の命ずるがままに脚をひらかなければならない。どんなに恥ずかしい姿態をするようにと言われても、屈辱的なことをさせられても、厭とは言えないのだ。
嘉利に触れられる度、お亀は自分が穢れてゆくような気がしてならない。身体だけでなく心までがどす黒く濁り、穢れてしまってゆくような。男に嬲り尽くされ、慰みものにされる自分が厭で情けなくて、気が狂いそうになる時、この鈴の音を聞くと、少しだけ心が軽やかなる。