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鈴(REI)~その先にあるものは~
第4章 露草~呼応~
 今になって、お亀はひと月前の夜、何故、自分が初めて男を受け容れるのかどうかということに嘉利があれほど拘り、生娘であると知ると歓んでいたのか納得できた。
 嘉利に抱かれる度に、穢れゆくのは身体だけではない、心も同じだ。
 むしろ、身体だけは好き放題にされても、心は毅然として男を拒み切ることができれば、こんなに苦しむことはないはずだ。
 嘉利のことは憎いし、大嫌いなことに変わりはないけれど、嘉利と過ごす夜に身体と心は鋭敏に反応し、順応してゆく。
 知らぬ中に、涙がつうっとひとすじ頬を流れ落ちた。
「何を泣いている?」
 ふと背後で声が聞こえ、お亀は身を強ばらせた。慌てて鈴を帯の間に押し込む。
 お香代の形見の鈴を見ると、嘉利の機嫌が悪くなる。あんな情けや良心のかけらもないような男でも、やはり自分が手込めにし、死に追いやった女のことを思い出す度に、罪の意識を憶えるのだろうか。
 それとも、見せつけるように自害して果てた女を思い出し、腹立たしい想いになるのだろうか。
 とにかく鈴を持っているところを見つかれば、取り上げられてしまうだろうから、絶対に嘉利に見つかりたくはない。
 お亀は小さくかぶりを振ると、立ち上がった。
「庭を見ておりました」
 消え入るような声で応えると、また、うつむく。
「なるほど、紫陽花か」
 嘉利が納得したように頷いた。背後から近寄ってくる脚音に、知らず身が縮まる。
 身体中の膚が粟立つような嫌悪感ともつかぬ、恐怖感を憶えずにはいられなかった。
 これほど嫌いな男のはずなのに、夜、閨の中で膚を合わせている最中は、それほど違和感や抵抗がなくなってきている。お亀には―それが何より怖ろしかった。そんな我が身が怖かった。
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