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鈴(REI)~その先にあるものは~
第4章 露草~呼応~
お亀の居室からは庭が一望できる。小さな庭だが、四季折々の花が植わっており、初夏の今は紫陽花が蒼色の花をかすかに色づかせていた。
梅雨入りもまだとて、空は晴れ渡り、日中は部屋内でじっとしていても、汗ばむほどの陽気だ。
お亀は踵を返そうとした。
花を見ていたというのはその場を言い繕う言い訳に過ぎない。ただ考え事に耽っていただけのことなのだ。だが、何を考えていたと問いつめられたくはなかったので、適当な出任せを言った。
と、続いて向こうから歩いてこようとした嘉利の脚許を見、お亀は声を上げた。
「あっ」
流石に嘉利が愕いたように立ち止まり、お亀を見る。
「一体どうしたというのだ、急に大きな声を出せば、愕くではないか」
「申し訳ございませぬ」
お亀は蒼褪めた。
「でも、お脚許に露草が」
お亀は詫びながらも、小腰を屈めて嘉利の脚許の小さな花を愛おしげに見つめた。
「そなたらしいな。かような小さな草花がそのように気に入ったのか」
嘉利が呆れたような顔で言い、ひょいとしゃがんだ。
「どれ、そんなに気に入ったのなら、持ち帰って部屋に活ければ良い」
思わず手を伸ばして摘み取ろうとするのに、お亀はまた大きな声を上げていた。
「お待ち下さいませ。花も―生きているのでございます。このままにしておけば、あと何日かはきれいな花を咲かせることができますが、摘んでしまえば、すぐに萎れてしまうことでしょう。お願いでございますから、このままに」
言った後で、しまったと後悔する。
嘉利は差し出た口をきくことを嫌うのだ。
梅雨入りもまだとて、空は晴れ渡り、日中は部屋内でじっとしていても、汗ばむほどの陽気だ。
お亀は踵を返そうとした。
花を見ていたというのはその場を言い繕う言い訳に過ぎない。ただ考え事に耽っていただけのことなのだ。だが、何を考えていたと問いつめられたくはなかったので、適当な出任せを言った。
と、続いて向こうから歩いてこようとした嘉利の脚許を見、お亀は声を上げた。
「あっ」
流石に嘉利が愕いたように立ち止まり、お亀を見る。
「一体どうしたというのだ、急に大きな声を出せば、愕くではないか」
「申し訳ございませぬ」
お亀は蒼褪めた。
「でも、お脚許に露草が」
お亀は詫びながらも、小腰を屈めて嘉利の脚許の小さな花を愛おしげに見つめた。
「そなたらしいな。かような小さな草花がそのように気に入ったのか」
嘉利が呆れたような顔で言い、ひょいとしゃがんだ。
「どれ、そんなに気に入ったのなら、持ち帰って部屋に活ければ良い」
思わず手を伸ばして摘み取ろうとするのに、お亀はまた大きな声を上げていた。
「お待ち下さいませ。花も―生きているのでございます。このままにしておけば、あと何日かはきれいな花を咲かせることができますが、摘んでしまえば、すぐに萎れてしまうことでしょう。お願いでございますから、このままに」
言った後で、しまったと後悔する。
嘉利は差し出た口をきくことを嫌うのだ。