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鈴(REI)~その先にあるものは~
第4章 露草~呼応~
きっとまた機嫌を損じてしまうだろう。
そんな日は、閨の中での嘉利は殊更荒々しく、容赦なくなるのは決まっている。また、今夜はどのような目に遭うのかと想像しだけで、うっすらと眼に涙が滲んだ。
「もう、良い」
案の定、嘉利は黙り込み、憮然としてそのまま立ち去っていった。
お亀は泣きたい気持ちで、その場に一人、取り残された。
まだ色のうつろわぬ紫陽花がひっそりと花開いている。お亀は涙の滲んだ眼で、星型の小さな花の集まった鞠のような愛らしい花をいつまでも眺めていた。
だが、お亀の不安をよそに、その夜、嘉利からのお召しはなかった。どうやら、別の女が夜伽を仰せつかったらしい。
木檜城の奥向きにはお手付きの腰元が何人かいる。しかし、意外なことに、好色と評判の嘉利には正室はおろか、側室もこれまで一人もいなかったのだ。その事実を知った時、お亀でさえ愕いたほどである。
一つには、嘉利が評判どおり、〝初物食い〟―つまり、生娘ばかりを好んで漁っていたせいもある。普段の夜の相手を務めさせるために、城の奥女中に何人かは手を付けてはいたようだが、これもほんの気紛れに伽をさせるだけで、決まった相手というのはいなかったようだ。
その夜、嘉利の相手をしたのは、大方はそういったお手付きの腰元の一人らしい。通常、殿さまのお手が腰元に付いても、すぐに側室になれるわけではない。殿の御子を宿し、無事身二つになってから改めて独立した部屋を賜り、〝お部屋さま〟と呼ばれ御子のご生母としての待遇を受ける身分、つまり正式な側妾と認められるのだ。いわば、殿の御子を生むまでは、幾らご寵愛が厚かろうと、あくまでもお手付きの腰元にすぎないのである。
むろん、懐妊が判った時点で、腰元としての勤めも免除され、局(部屋)を与えられはする。しかし、それはあくまでも一時的な措置で、公式に認められる愛妾となるのは出産を終えた後のことだ。
そんな日は、閨の中での嘉利は殊更荒々しく、容赦なくなるのは決まっている。また、今夜はどのような目に遭うのかと想像しだけで、うっすらと眼に涙が滲んだ。
「もう、良い」
案の定、嘉利は黙り込み、憮然としてそのまま立ち去っていった。
お亀は泣きたい気持ちで、その場に一人、取り残された。
まだ色のうつろわぬ紫陽花がひっそりと花開いている。お亀は涙の滲んだ眼で、星型の小さな花の集まった鞠のような愛らしい花をいつまでも眺めていた。
だが、お亀の不安をよそに、その夜、嘉利からのお召しはなかった。どうやら、別の女が夜伽を仰せつかったらしい。
木檜城の奥向きにはお手付きの腰元が何人かいる。しかし、意外なことに、好色と評判の嘉利には正室はおろか、側室もこれまで一人もいなかったのだ。その事実を知った時、お亀でさえ愕いたほどである。
一つには、嘉利が評判どおり、〝初物食い〟―つまり、生娘ばかりを好んで漁っていたせいもある。普段の夜の相手を務めさせるために、城の奥女中に何人かは手を付けてはいたようだが、これもほんの気紛れに伽をさせるだけで、決まった相手というのはいなかったようだ。
その夜、嘉利の相手をしたのは、大方はそういったお手付きの腰元の一人らしい。通常、殿さまのお手が腰元に付いても、すぐに側室になれるわけではない。殿の御子を宿し、無事身二つになってから改めて独立した部屋を賜り、〝お部屋さま〟と呼ばれ御子のご生母としての待遇を受ける身分、つまり正式な側妾と認められるのだ。いわば、殿の御子を生むまでは、幾らご寵愛が厚かろうと、あくまでもお手付きの腰元にすぎないのである。
むろん、懐妊が判った時点で、腰元としての勤めも免除され、局(部屋)を与えられはする。しかし、それはあくまでも一時的な措置で、公式に認められる愛妾となるのは出産を終えた後のことだ。