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鈴(REI)~その先にあるものは~
第4章 露草~呼応~
と、まぁ、奥向きは女だけの世界ゆえ、実にあけすけな内容で事実無根の噂が真しやかに語られているのだ。
嘉利の真意はともかくとして、お亀が与えられた待遇が常識では考えられないものであったことは確かではあった。
つまり、現在のところ、木檜城の奥向きに公に認められた側室はお亀、ただ一人なのだ。
側室として〝藤乃〟などというたいそうな名を与えられたお亀に夜のお召しがなかったのは、奥向きに迎えられて以来、その夜が初めてのことであった。
常であれば、夜(よ)離(が)れか、男の心が離れていっているのかと不安がるものだろうけれど、お亀がそんな心配をするはずもない。そのお陰で、その夜は、久方ぶりに手脚を伸ばして、一人で朝まで熟睡できた。
一度、解放されると、再びあの汚辱の夜に耐えることがどうにも我慢できないもののように思えてくる。お亀は次の夜とその次の夜、思い切って、月事(生理)を理由にお褥を辞退した。
嘉利が怒るかもしれないと内心は怯えていたのだが、意に反して、嘉利からは何も言ってはこなかった。
三日目の朝、お亀は一人、部屋の縁側に座っていた。今日も暑くなりそうな一日である。
そろそろ梅雨入りが近いのかもしれないが、雨はここ数日降ってはいない。
障子戸はすべて開け放した部屋からは、小さな庭が見渡せる。雨のないせいで、紫陽花の色は殆ど変わらず、心なしか元気もないようだ。
このまま、自分はどうなってゆくのだろう。
嘉利が自分という存在を忘れてくれたのだとしたら、飽きてしまったのだとしたら。
それはそれでホッとする。もう、あんな恥ずかしい辛い想いをすることもないのだと思うと、安堵のあまり涙が出そうになる。
嘉利の真意はともかくとして、お亀が与えられた待遇が常識では考えられないものであったことは確かではあった。
つまり、現在のところ、木檜城の奥向きに公に認められた側室はお亀、ただ一人なのだ。
側室として〝藤乃〟などというたいそうな名を与えられたお亀に夜のお召しがなかったのは、奥向きに迎えられて以来、その夜が初めてのことであった。
常であれば、夜(よ)離(が)れか、男の心が離れていっているのかと不安がるものだろうけれど、お亀がそんな心配をするはずもない。そのお陰で、その夜は、久方ぶりに手脚を伸ばして、一人で朝まで熟睡できた。
一度、解放されると、再びあの汚辱の夜に耐えることがどうにも我慢できないもののように思えてくる。お亀は次の夜とその次の夜、思い切って、月事(生理)を理由にお褥を辞退した。
嘉利が怒るかもしれないと内心は怯えていたのだが、意に反して、嘉利からは何も言ってはこなかった。
三日目の朝、お亀は一人、部屋の縁側に座っていた。今日も暑くなりそうな一日である。
そろそろ梅雨入りが近いのかもしれないが、雨はここ数日降ってはいない。
障子戸はすべて開け放した部屋からは、小さな庭が見渡せる。雨のないせいで、紫陽花の色は殆ど変わらず、心なしか元気もないようだ。
このまま、自分はどうなってゆくのだろう。
嘉利が自分という存在を忘れてくれたのだとしたら、飽きてしまったのだとしたら。
それはそれでホッとする。もう、あんな恥ずかしい辛い想いをすることもないのだと思うと、安堵のあまり涙が出そうになる。