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鈴(REI)~その先にあるものは~
第4章 露草~呼応~
「それは、そちの買いかぶり過ぎだ。そちの伯父柳井幹之進は〝剣聖〟とまで謳われている伝説の剣豪ではないか。俺は、柳井幹之進のように、生きながら伝説と化したような男は他に知らぬ。―もっとも、情け知らずの冷酷な藩主として俺の悪名も相当、轟いているようだと、そなたはやはり、あの時申したがな」
確かに、そんなことも言った。
悪びれた様子もなく淡々と言う嘉利を、お亀は窺うように見る。
「そなたの伯父と俺が仮に一対一で勝負したとて、俺が返り討ちに遭うのが関の山だ」
嘉利は自らを卑下した風でもなく応え、お亀を見た。
「そちの伯父は、どのような男であった?」
お亀はしばらく思案した後、慎重に言葉を選びながら応えた。
「私の伯父は常々申しておりました。剣は人を殺すためにはあらず、我が生命を守り、人を活かすための活人剣だと」
「―俺とは反対の剣技だな」
しばらく沈黙が落ち、やがて、嘉利が呟いた。
「だが、俺はそなたの伯父に逢うて、直接教えを受けてみたかった。もし、そなたの伯父が俺の指南役であれば、俺もその人を活かす剣とやらを学び、身につけることができたやもしれぬ」
「殿のご指南役は、どなたにございましたか」
あれほどの剣技を伝授したからには、指南役も相当の遣い手であったに違いない。幾ら嘉利自身に才能があったとしても、それを最大限に引き出すのは指南役の役目だからだ。
お亀がふと興味を引かれて訊ねると、嘉利はポツリと洩らした。
「俺の指南役はおらぬ。強いて申せば、俺は父に剣を教わった」
「ご先代さまが殿のご指南役でおわされましたか。それは、お羨ましいことにございます。私の父は小さな村の村長で、百姓にございましたゆえ。剣の道なぞ教わることなどできっこありませんでした」
確かに、そんなことも言った。
悪びれた様子もなく淡々と言う嘉利を、お亀は窺うように見る。
「そなたの伯父と俺が仮に一対一で勝負したとて、俺が返り討ちに遭うのが関の山だ」
嘉利は自らを卑下した風でもなく応え、お亀を見た。
「そちの伯父は、どのような男であった?」
お亀はしばらく思案した後、慎重に言葉を選びながら応えた。
「私の伯父は常々申しておりました。剣は人を殺すためにはあらず、我が生命を守り、人を活かすための活人剣だと」
「―俺とは反対の剣技だな」
しばらく沈黙が落ち、やがて、嘉利が呟いた。
「だが、俺はそなたの伯父に逢うて、直接教えを受けてみたかった。もし、そなたの伯父が俺の指南役であれば、俺もその人を活かす剣とやらを学び、身につけることができたやもしれぬ」
「殿のご指南役は、どなたにございましたか」
あれほどの剣技を伝授したからには、指南役も相当の遣い手であったに違いない。幾ら嘉利自身に才能があったとしても、それを最大限に引き出すのは指南役の役目だからだ。
お亀がふと興味を引かれて訊ねると、嘉利はポツリと洩らした。
「俺の指南役はおらぬ。強いて申せば、俺は父に剣を教わった」
「ご先代さまが殿のご指南役でおわされましたか。それは、お羨ましいことにございます。私の父は小さな村の村長で、百姓にございましたゆえ。剣の道なぞ教わることなどできっこありませんでした」