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鈴(REI)~その先にあるものは~
第4章 露草~呼応~
「―それが世の常のような、まともな親子関係であれば、さもありなん。しかしながら、俺と父上は違う」
思わずゾッとするほど低い声に、お亀はハッとした。
嘉利の眼が、いつもの暗い光を帯びている。
つい先刻まで若者らしく晴れやかな表情を見せていた横顔がぬぐい難い孤独の陰を滲ませていた。
「俺が父上の真の子ではないという噂があることを、そちは知っているか」
「いいえ、そのようなお話は一切耳にしたことはございませぬ」
やっとの想いで言うと、嘉利がフッと笑う。
その何とも淋しげな笑いに、一瞬、胸を突かれた。
「俺の母が嫁いで参りし砌、まだ祖父、つまり先々代の藩主嘉公(よしとも)公がご存命であらせられた。父上には幼い頃に亡くなった二つ違いの姉姫がいてな。他の兄弟(きよう)姉妹(だい)(嘉倫は嘉公の第二子である。側室から生誕した長男は夭折)はすべて異腹だが、その姉姫だけは正室腹の同母の姉であった。わずかに二つで亡くなられ、父上ご自身は顔も知らぬ姉姫だが、俺の母はその亡くなられた姫によく似ていたという。歳も丁度、父上より二つ上、亡くなった姉姫と同じであったことから、嘉公公は母上をたいそう慈しまれたと聞く。そうだ、その可愛がり様が到底尋常ではない―舅が嫁、息子の妻に対するものではなく、度を超えていると、当時、皆が噂し合ったそうだ」
「まさか、そのような」
お亀は言葉を失った。唇が、戦慄く。
「真相は知らぬ。何しろ俺が四つのときには、もうお祖父(じじ)さまはお亡くなりになられたからな。お祖父さまのお顔も実はよく記憶しておらぬ。だが、少なくとも、俺の父はその噂を本気にしていた。信じるとまではいかずとも、かなり気にしてはいた」
七つになったばかりの頃、嘉利は突然、父に庭に引っ張り出された。
思わずゾッとするほど低い声に、お亀はハッとした。
嘉利の眼が、いつもの暗い光を帯びている。
つい先刻まで若者らしく晴れやかな表情を見せていた横顔がぬぐい難い孤独の陰を滲ませていた。
「俺が父上の真の子ではないという噂があることを、そちは知っているか」
「いいえ、そのようなお話は一切耳にしたことはございませぬ」
やっとの想いで言うと、嘉利がフッと笑う。
その何とも淋しげな笑いに、一瞬、胸を突かれた。
「俺の母が嫁いで参りし砌、まだ祖父、つまり先々代の藩主嘉公(よしとも)公がご存命であらせられた。父上には幼い頃に亡くなった二つ違いの姉姫がいてな。他の兄弟(きよう)姉妹(だい)(嘉倫は嘉公の第二子である。側室から生誕した長男は夭折)はすべて異腹だが、その姉姫だけは正室腹の同母の姉であった。わずかに二つで亡くなられ、父上ご自身は顔も知らぬ姉姫だが、俺の母はその亡くなられた姫によく似ていたという。歳も丁度、父上より二つ上、亡くなった姉姫と同じであったことから、嘉公公は母上をたいそう慈しまれたと聞く。そうだ、その可愛がり様が到底尋常ではない―舅が嫁、息子の妻に対するものではなく、度を超えていると、当時、皆が噂し合ったそうだ」
「まさか、そのような」
お亀は言葉を失った。唇が、戦慄く。
「真相は知らぬ。何しろ俺が四つのときには、もうお祖父(じじ)さまはお亡くなりになられたからな。お祖父さまのお顔も実はよく記憶しておらぬ。だが、少なくとも、俺の父はその噂を本気にしていた。信じるとまではいかずとも、かなり気にしてはいた」
七つになったばかりの頃、嘉利は突然、父に庭に引っ張り出された。