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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
 その頃、初めて相田小五郎とも出逢った。まだ前髪立ちの、大きな眼をした小五郎はちょっと見には女の子と見紛うほど愛らしい子どもだった。そう、確か、あの時、お亀とお香代は五歳、小五郎は三つ上の八歳であった。
 小さな子どもが道場に入門してわずか三年でめきめきと腕を上げ、並み居る兄弟子たちを次々と打ち負かす姿は奇蹟のように見えた。
 小五郎と話すことは滅多となかった。伯父幹之進は小五郎とお亀が刀を交えることは許さなかった。他の門弟たちに混じれば、お亀は女であるということを別にしても、けして引けは取らなかった。が、剣にかけては伯父を凌ぐとさえ囁かれている小五郎と闘っては、流石のお亀も太刀打ちできないことを幹之進が端から予測していたからかもしれない。
 ゆえに、遠くから見かけたり、庭ですれ違うことはあったけれど、小五郎は軽く目礼するだけで素っ気なく通り過ぎてゆく。その頃から、伯父幹之進は小五郎をいずれは次の道場主にと思案していたのだろう。所詮、小五郎のような将来を期待された少年と、自分みたいな凡庸で何の取り柄もない女の子ではつり合うはずがないのだと諦めていた。
―お香代ちゃんのように、可愛くてきれいな女の子をきっと小五郎さまもお好きなのだわ。
 今から思えば、随分とませた子どもだったものだ。
 ずっと自分は日陰の身で、お香代が陽の光を受けて咲き誇る大輪の花ならば、自分はその陰でひっそりと咲く小さな野花のようなものなのだと思ってきた。ゆえに、十五になったある日、しばらく音沙汰のなかったお香代から突如として文が来て、小五郎と恋仲になり、祝言を挙げることになったと知らされても、格別に落胆もしなかった。
 自分は小五郎にほのかな思慕を抱いたことはあっても、小五郎はきっと自分のようなつまらない娘のことなど、とうに忘れている―いや、端から道端の石ころくらいにしか見られてはいないのだと諦めていたのだ。
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