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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
 だから、ふた月前、小五郎が突然訪れ、五年ぶりに再会したときには驚愕した。
 お香代の死の衝撃もむろんであったけれど、小五郎があの頃、お香代よりも自分に想いを寄せていたと打ち明けられかけ、慌ててその言葉を遮った。
 あの続きは、聞いてはならない、否、今更聞いても致し方のないことであった。むしろ、小五郎とお香代が夫婦となり、そのお香代が不幸な死を遂げた今、小五郎に言わせてはならい科白でもあった。それは、お香代を冒涜することにもなりかねない。
 それに、すべてを聞いてしまえば、もう二度と何もなかった頃の自分たちには戻れない。お亀は日陰の野花で十分だった。お香代もおらぬ今、昔の淡い初恋が今になってどうなるとも思えないし、また、どうしたいとも思わない。想い出は想い出として、心の奥底に大切にしまっておきたい。
 お亀は小さな息を吐き出した。
 この頃、胃の調子が良くない。むかむかとして、ひどい吐き気がする。食は落ちる一方だ。村でひっそりと暮らしていた頃と違い、今は木檜藩主のただ一人の側室としてお城暮らしの身分になった。あまりにも環境が違ってしまったせいかと思ったけれど、月のものもずっと遅れていた。
 最近、もしやと思う気持ちがずっともやもやと心でわだかまっていた。初めて嘉利に抱かれてからふた月、もしかしたら、自分は嘉利の子を宿してしまったのではないか。
 嘉利はお亀の懐妊を心待ちにしているようだが、正直、お亀はその事実を受け容れるのは難しい。何故、御仏はこうも自分に苛酷な宿命をお与えになるのかと天を恨みたくもなってしまう。
 好きでもなく、愛してもおらぬ男の子を身ごもった自分。しかもその子は陵辱を受け続けた何よりの証でしかない。嘉利のことを大切に思ってはいるけれど、その子を身の内に宿し、十月十日胎内で育て生むというのとはまた別の次元の話だ。
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