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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
一体、自分はどうしたら良いのだろう。
このまま嘉利の望むとおり、彼の許にとどまり、嘉利の子を生むのが良いのだろうか。それがたとえ嘉利を本当の意味で裏切ることにはなっても、多分、何かもかもがすべて上手くゆくためには最も望ましい道なのだろう。
お亀さえ己れの心を偽り、嘉利に微笑みかけていれば、嘉利の心は穏やかになり、人を殺めることもない。生来の嘉利は英明な人物だ。けして愚鈍でも暗愚な君主でもない。お亀という存在を得て心の安定を取り戻せば、先代嘉倫以上の名君と謳われる良き藩主なるに違いない。
嘉利は嘘を言わない男だ。お亀が彼の傍にいれば、もう無益な殺生をしないと誓ったあの言葉に偽りはない。何より、あのときの嘉利の瞳は真摯で、ひとかけらの嘘もなかった。
お亀さえ何も口にしなければ。
すべてが上手くゆく。大切な男をむざと破滅の道に追い込むこともなく、お亀もまたそれなりに穏やかで幸せな生涯を送れることだろう。藩主の側室としてや、嘉利の子の母としての栄耀栄華には少しも未練はなかったが、嘉利と二人で穏やかな日々を紡いでゆくのも悪くはないと思う自分も確かにいる。
だが、お亀は知っている。
自分は絶対に、その穏やかな日々を手に入れることはない。お亀が嘉利の傍からいなくなる日はいずれ遠からず訪れるだろう。
もし懐妊しているのだとしても、お亀は嘉利の傍を去るつもりでいた。自分は嘉利を愛してはいないのだと、大切な存在だからこそ、もう自分の心を偽って一緒にはいられないのだと本当の気持ちを伝えるつもりだ。
恐らく、その時、お亀はただでは済まない。激怒した嘉利は今度こそ、お亀を殺すはずだ。
嘉利が怒っても無理はない。お亀はこの城に来てからふた月もの間、ずっと嘉利を欺き続けていたのだから―。最初は嘉利に抱かれることを厭がりながらも、次第に嘉利の愛撫に馴れ、閨の中では嘉利の腕に抱かれ、歓びの声を上げ身をのけぞらせていたのだ。
このまま嘉利の望むとおり、彼の許にとどまり、嘉利の子を生むのが良いのだろうか。それがたとえ嘉利を本当の意味で裏切ることにはなっても、多分、何かもかもがすべて上手くゆくためには最も望ましい道なのだろう。
お亀さえ己れの心を偽り、嘉利に微笑みかけていれば、嘉利の心は穏やかになり、人を殺めることもない。生来の嘉利は英明な人物だ。けして愚鈍でも暗愚な君主でもない。お亀という存在を得て心の安定を取り戻せば、先代嘉倫以上の名君と謳われる良き藩主なるに違いない。
嘉利は嘘を言わない男だ。お亀が彼の傍にいれば、もう無益な殺生をしないと誓ったあの言葉に偽りはない。何より、あのときの嘉利の瞳は真摯で、ひとかけらの嘘もなかった。
お亀さえ何も口にしなければ。
すべてが上手くゆく。大切な男をむざと破滅の道に追い込むこともなく、お亀もまたそれなりに穏やかで幸せな生涯を送れることだろう。藩主の側室としてや、嘉利の子の母としての栄耀栄華には少しも未練はなかったが、嘉利と二人で穏やかな日々を紡いでゆくのも悪くはないと思う自分も確かにいる。
だが、お亀は知っている。
自分は絶対に、その穏やかな日々を手に入れることはない。お亀が嘉利の傍からいなくなる日はいずれ遠からず訪れるだろう。
もし懐妊しているのだとしても、お亀は嘉利の傍を去るつもりでいた。自分は嘉利を愛してはいないのだと、大切な存在だからこそ、もう自分の心を偽って一緒にはいられないのだと本当の気持ちを伝えるつもりだ。
恐らく、その時、お亀はただでは済まない。激怒した嘉利は今度こそ、お亀を殺すはずだ。
嘉利が怒っても無理はない。お亀はこの城に来てからふた月もの間、ずっと嘉利を欺き続けていたのだから―。最初は嘉利に抱かれることを厭がりながらも、次第に嘉利の愛撫に馴れ、閨の中では嘉利の腕に抱かれ、歓びの声を上げ身をのけぞらせていたのだ。