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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
しかし、お亀にとっては、やっと逢えた懐かしさよりも、戸惑いと不安の方が大きかった。
「小五郎さま、どうして、このような場所に」
思わず胸の想いを訴えると、小五郎は薄く笑った。
「あなたのことが忘れられなくて、ここまで来たと言ったら、あなたは怒りますか?」
冗談など口にしたことのない男が、余裕の笑顔で笑っている。
お亀は何か心に不吉なものを憶え、庭に走り降りた。動転のあまり、裸足であることさえ頓着していなかった。
「どうして、このような無謀なことをなされました? ここは藩主のお住まいになる城中でございます。万が一、殿に見つかって囚われの身にでもなれば、小五郎さまは殺されてしまいます」
お亀が小五郎に縋るような眼を向けると、小五郎が小さく笑んだ。
「殿―、お亀どのは随分と藩主を親しげに呼ばれる。聞けば、藩主のひとかたならぬ寵愛を受けていると聞いていますが」
「―」
お亀は唇を噛みしめ、うつむいた。
小五郎の口から、そんな話は聞きたくはなかった。
たとえ、それが身勝手な願いだとしても。
小五郎にとって、藩主嘉利は妻を辱め、死なせた憎んでも憎みきれぬ敵であり、柳井道場を閉めざるをえなくる原因を作った男だ。その男の側女となり、夜毎、男に抱かれる日々に甘んじているお亀を裏切り者と見なす方が自然だろう。
「小五郎さま、どうして、このような場所に」
思わず胸の想いを訴えると、小五郎は薄く笑った。
「あなたのことが忘れられなくて、ここまで来たと言ったら、あなたは怒りますか?」
冗談など口にしたことのない男が、余裕の笑顔で笑っている。
お亀は何か心に不吉なものを憶え、庭に走り降りた。動転のあまり、裸足であることさえ頓着していなかった。
「どうして、このような無謀なことをなされました? ここは藩主のお住まいになる城中でございます。万が一、殿に見つかって囚われの身にでもなれば、小五郎さまは殺されてしまいます」
お亀が小五郎に縋るような眼を向けると、小五郎が小さく笑んだ。
「殿―、お亀どのは随分と藩主を親しげに呼ばれる。聞けば、藩主のひとかたならぬ寵愛を受けていると聞いていますが」
「―」
お亀は唇を噛みしめ、うつむいた。
小五郎の口から、そんな話は聞きたくはなかった。
たとえ、それが身勝手な願いだとしても。
小五郎にとって、藩主嘉利は妻を辱め、死なせた憎んでも憎みきれぬ敵であり、柳井道場を閉めざるをえなくる原因を作った男だ。その男の側女となり、夜毎、男に抱かれる日々に甘んじているお亀を裏切り者と見なす方が自然だろう。