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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
「済みません。何もあなたを責めているわけではないのです。畜生公とその冷酷さを怖れられているほどの男だ。もし、あなたが意に従わなければ、あの男はあなたを惨たらしく殺すだろう。私は、あなたに妻の二の舞を踏ませたくはない。あなたには、生きていて欲しい―たとえ、あなたがどのように苦しんでいるとしても、生きてさえいてくれればと思っています。私は、あなたまでをも失いたくはない。それは、あなたには酷な願いかもしれませんが」
 小五郎が思いつめた口調で言うのに、お亀は首を振った。
「違うのです」
「―?」
 自分を意外そうに見つめた小五郎に、お亀は夢中で言った。
「あの方は、殿―嘉利公は、世間が言うほどの非道なお方ではありません。それは確かに、あの方の重ねてきた行いは到底人として許されるものではありませぬ。さりながら、嘉利公は本当は情理を備えた英明なお方です。あの方にはあの方なりの苦しみがあって―」
「それで、すべてが許されるというのか? お亀どの、あの男にどのような事情があるのかは知らぬ。しかし、人には誰しもその人なりの事情ならあるものにござる。それを逃げ口上に、自らの欲望のままにふるまい、罪もなき百姓を快楽のためにのみ斬り、女を手込めにするは、ただの畜生にも劣ると存ずる。仮にも一国を統べる藩主たるもの、個人的な事情云々で政を投げ出し、あまつさえ女色に溺れ、罪なき人を殺す殺生を重ねるは甘えどころではない、許されぬ大罪だ」
 小五郎の言葉は道理だ。
 お亀は何も言い返せず、また、うむついた。
「お亀どの、もしや、お亀どのは藩主を―」
 〝愛してしまったのか〟と訊こうとしたのは判っていた。
 お亀は小さくかぶりを振った。
「違います。私は―」
 言いかけるお亀を小五郎は哀しげな眼で見つめる。
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