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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
「あなたが木檜城に一人で乗り込んだと聞いたときは、我が耳を疑った。今夜、ここに忍び入った私をお亀どのは無謀なことをしたと言うが、あなたがなそうとしたことは、こんなことより、はるかに危険だった。まかり間違えば、いや、藩主の気性を考えれば、御前試合の場であなたが暗殺に失敗した時、あの男に殺されていたとしても何の不思議はない」
 そこで、小五郎は溜息をついた。
「藩主はあなたを殺さなかった。先刻も言ったが、あなたには辛いことだったろう。だが、あなたが生きていてくれたお陰で、私も漸く決心がついた」
 小五郎の言葉に何か強い決意のようなものを感じ、お亀は思わず小五郎の顔を見た。
「小五郎さま?」
「私は、あなたを藩主から奪い返すつもりで今夜、ここまで来た」
 小五郎は一度は口ごもりながらも、しばらくうつむき、やがて弾かれたように面を上げ意を決したように言う。
「無事に二人でここから逃げおおせたなら、一緒になって貰えませんか。私の妻として、私について来て欲しい」
「でも、私はもう、昔の私ではございません。小五郎さまがご存じの私ではないのです。こんな私では、小五郎さまのお側にいることは叶いませぬ」
 嘉利と数え切れぬほどの夜を過ごし、この身体はもうさんざん穢れた身だ。殊に、心はともかく、お亀の身体は女を知り尽くした嘉利の愛撫に慣れ、その身体は抱かれることを歓んでさえいた。
 そんな自分が、小五郎の妻になることはできない。たとえ、お亀の心がどれほどそれを望んだとしても、だ。
 そう、お亀が嘉利に烈しく愛されながら、ついに嘉利に愛を返せなかったその真の理由は、小五郎の存在であった。とうに諦めたつもりでも、心の片隅にこの男の面影が棲みついて離れなかったのだ。
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