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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
「そのようなことはない。お亀どの、私は先刻、あなたの心を傷つけるようなことを申してしまったが、それは、あなたが―私より藩主をあの男を選んだという事実が認められず、醜い嫉妬をしてしまったからだ。あなたが私を嫌いでないというのなら、どうか私のこの気持ちを受け容れてくれまいか」
小五郎の言葉が、優しさが心に滲みる。
「私は、お亀どのがどのように過ごしてきたのかなど、一切気にはしない。今の、あるがままのお亀どのが好きだ。いや、ずっと、ずっと好きだった。もし、あなたも同じようにあの頃から私を見つめていてくれたのだと知っていたら、私は迷わずお香代ではなく、あなたを―」
「小五郎さま、そのお話は、もうお止め下さいませ。私は小五郎さまから、そのお話は聞きとうはございませぬ」
少女の頃から、ただ小五郎だけを見つめ、一途に慕っていたお香代が、あまりに哀れに思えた。初恋を実らせて幸せ一杯に輝いていたお香代。小五郎の妻となってからのお香代に逢うことはついになかったけれど、お香代から届く手紙には、若妻となったお香代の歓びが綴られていた。
あの幸せを、歓びを、今になって曇らせたくはない。お香代は良人に愛された幸せな妻として逝ったのだ。
その時。
部屋の方が俄に騒がしくなった。
「小五郎さま」
お亀と小五郎が一瞬、顔を見合わせた。
「お方さま、藤乃のお方さま?」
お付きの腰元が探しているようだ。
部屋を覗いたら、お亀の姿が見えぬので訝しく思ったのだろう。
「お方さま」
声が段々と近づいてくる。
お亀は蒼褪めた。
「小五郎さま、これ以上ここにいらっしゃってはいけませぬ」
小五郎に緊張を漲らせた声で告げると、小五郎が首を振った。
小五郎の言葉が、優しさが心に滲みる。
「私は、お亀どのがどのように過ごしてきたのかなど、一切気にはしない。今の、あるがままのお亀どのが好きだ。いや、ずっと、ずっと好きだった。もし、あなたも同じようにあの頃から私を見つめていてくれたのだと知っていたら、私は迷わずお香代ではなく、あなたを―」
「小五郎さま、そのお話は、もうお止め下さいませ。私は小五郎さまから、そのお話は聞きとうはございませぬ」
少女の頃から、ただ小五郎だけを見つめ、一途に慕っていたお香代が、あまりに哀れに思えた。初恋を実らせて幸せ一杯に輝いていたお香代。小五郎の妻となってからのお香代に逢うことはついになかったけれど、お香代から届く手紙には、若妻となったお香代の歓びが綴られていた。
あの幸せを、歓びを、今になって曇らせたくはない。お香代は良人に愛された幸せな妻として逝ったのだ。
その時。
部屋の方が俄に騒がしくなった。
「小五郎さま」
お亀と小五郎が一瞬、顔を見合わせた。
「お方さま、藤乃のお方さま?」
お付きの腰元が探しているようだ。
部屋を覗いたら、お亀の姿が見えぬので訝しく思ったのだろう。
「お方さま」
声が段々と近づいてくる。
お亀は蒼褪めた。
「小五郎さま、これ以上ここにいらっしゃってはいけませぬ」
小五郎に緊張を漲らせた声で告げると、小五郎が首を振った。