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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
薄闇の中、まなざしとまなざしが切なく絡み合う。
「あい判った、いずれまた、あいまみえよう」
小五郎は頷き、お亀から手渡された手ぬぐいを懐にねじ込んだ。
次の瞬間には、ひらりと軽い身のこなしで紫陽花の茂みを飛び越えた。
「お方さまっ、お方さま。大事ございませぬか?」
腰元がまろぶように駆け寄ってくる。
お亀はまだ若い腰元を安心させるかのように、微笑みを作った。
「お知り合い―にございますか? 何やら親しげにお言葉を交わされておいでになっていたようにございますが」
「大事ない、曲者が参ったが、そなたが参って他に人が来ては大事になると、大慌てで逃げていってしまいました」
何とかその場を取り繕うと、腰元は曖昧な表情で頷く。
「さようにございますか。御身がご無事でよろしうございました。殿のおん大切な方にもし何かあれば、この私の首が飛びまする」
最後のひと言は皮肉にも聞こえたけれど―、お亀は迂闊にも失念していた。
この木檜城の奥向きの女たちは、嘉利の寵愛を一身に受ける自分に対して、けして良い印象は抱いてはいないということを。
側室藤乃の方の寝所に夜半、男が忍び込んだ―その一件は翌朝、直ちに藩主嘉利に伝えられた。
現実には、小五郎とお亀がいたのは庭であって、閨ではない。しかしながら、その場を唯一目撃した腰元の証言は、明らかに藤乃の方にとっては不利なものであった。
真夜中、しかも藩主のお渡りがない日に限って、藩主の熱愛する側室が寝所で若い男と共に手を握り合っていたというのだから―。
しかも、その証言によれば、藤乃の方と男は明らかに旧知の仲、つまり以前からの知り合いであり、それも相当に親密な間柄のように見えた。
「あい判った、いずれまた、あいまみえよう」
小五郎は頷き、お亀から手渡された手ぬぐいを懐にねじ込んだ。
次の瞬間には、ひらりと軽い身のこなしで紫陽花の茂みを飛び越えた。
「お方さまっ、お方さま。大事ございませぬか?」
腰元がまろぶように駆け寄ってくる。
お亀はまだ若い腰元を安心させるかのように、微笑みを作った。
「お知り合い―にございますか? 何やら親しげにお言葉を交わされておいでになっていたようにございますが」
「大事ない、曲者が参ったが、そなたが参って他に人が来ては大事になると、大慌てで逃げていってしまいました」
何とかその場を取り繕うと、腰元は曖昧な表情で頷く。
「さようにございますか。御身がご無事でよろしうございました。殿のおん大切な方にもし何かあれば、この私の首が飛びまする」
最後のひと言は皮肉にも聞こえたけれど―、お亀は迂闊にも失念していた。
この木檜城の奥向きの女たちは、嘉利の寵愛を一身に受ける自分に対して、けして良い印象は抱いてはいないということを。
側室藤乃の方の寝所に夜半、男が忍び込んだ―その一件は翌朝、直ちに藩主嘉利に伝えられた。
現実には、小五郎とお亀がいたのは庭であって、閨ではない。しかしながら、その場を唯一目撃した腰元の証言は、明らかに藤乃の方にとっては不利なものであった。
真夜中、しかも藩主のお渡りがない日に限って、藩主の熱愛する側室が寝所で若い男と共に手を握り合っていたというのだから―。
しかも、その証言によれば、藤乃の方と男は明らかに旧知の仲、つまり以前からの知り合いであり、それも相当に親密な間柄のように見えた。