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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
 その夜のことである。
 お亀の寝所を嘉利が訪れた。
 お亀はいつものように白い夜着姿で藩主を迎え入れる。
 嘉利もまた毎夜のように、白い着流しであった。
 お亀がこの寝所で男と忍び逢っていたという一件以来、はや数日が過ぎている。
 その間、嘉利のお渡りは流石に一度としてなく、お亀には自室で謹慎という一時的な沙汰が下されていた。
 漆黒の夜空に下弦の月が頼りなげに浮かんでいる。
 整然と布かれた夜具を挟んで向かい合うように座り、お亀は嘉利と見つめ合った。
「俺は、これでもそなたを信じていたのだぞ」
 どれほど長い間であったろう。
 実際には、それほどたいした時間ではなかったのかもしれない。
 水底(みなそこ)を思わせる白一色の閨の中、嘉利が張りつめた静寂を突き破るように唐突に口を開いた。
「男と逢っていたというのは真のことなのか」
 その問いに、お亀はふわりと、微笑んだ。
 まるで花のようだ、と、嘉利はこんなときでさえ、お亀の笑顔に見惚れた。
 この女は美しくなった。この城に来たばかの頃は、いかにも田舎から出てきた垢抜けない娘といった印象が拭えなかったが、今はどうだろう。単に美しく装っているからというわけではない。きらびやかな小袖や豪奢な打掛、きれいに結い上げた髪や高価な簪や笄―そういった身を飾るすべてのもの、外見の美しさのみでなく、内側から滲み出てくる光輝、それがお亀の美しさをより際立たせている。
 元々、内に秘めた美しさを持つ娘であった。嘉利はその内面の輝きにひとめで魅せられたのだ。このふた月ほどの間に、野暮ったい田舎娘は、見違えるようなお部屋さまに変貌を遂げた。もう、誰が見ても洗練された美しさを備えた、高貴な身分の女性にふさわしい気品を漂わせている。
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