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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
 加えて、男を知った娘が日毎に花開いてゆくように、お亀もまた嘉利の愛を得て美しく花開いた。あどけない少女のような素顔の他に、時折、ハッとするほどの妖艶さを見せ、殊に二人だけで過ごす閨で見せる恥じらいや裏腹に時に嘉利でさえ眼を瞠るほどの奔放さはなおいっそう彼を魅了した。
 お亀を心身ともに女として成熟させたのは、言わずと知れた嘉利であった。だが、お亀が嘉利をやはり愛してはいなかったというのなら、愛してもおらぬ男に夜毎抱かれ、女として花開いたのは、お亀にとってはけして嬉しいことでも幸せなことでもなかったろう。
「何ゆえ、何も応えぬ」
 嘉利が鋭い声で言った。
 お亀は依然として婉然と笑っている。
「そなたは俺を馬鹿にしているのか。それとも、何も申し開きをするすべもないということなのか。もし、このまま、そなたが何も申さねば、そなたはあの一件を事実と認めたことになるのだぞ? それが何を意味しておるのか、そなただとて判らぬではないだろう。そなたは側室とはいえ、俺の認めた、ただ一人の側女、妻も同然の立場だ。その側室が夜半に男と二人で忍び逢っていたとなれば、ただでは済まぬ」
 俺は、そなたを殺したくはないのだ。
 嘉利は喉元まで出かかった言葉を呑み込む。
 お亀が両手をつき、面を上げた。
「殿、私は誓って、あの場にては殿を裏切るようなことは致してはおりませぬ」
「あの場にては―? 聞き捨てならぬことを申すな。では、今一度問うが、あの場以外では、俺を裏切るようなことをしたとでも申すのか」
「身を慎むという点におきましては、私は一切、殿を裏切るようなことは致してはおりませぬ。ただ、心では、私は殿をお裏切りしていたやもしれません」
 真っすぐに自分を見つめてくる女から、嘉利は気まずげに眼を逸らす。
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