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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
「―」
「それは、どういうことだ」
固い声、強ばった顔。
お亀は、その孤独の影をいっそう濃くした嘉利の顔を切なく見つめた。
「殿にあれほどまでにお情けをかけて頂きながら、私は―」
言いかけたお亀の言葉を嘉利が途中で遮った。
「いや、待て。もう、何も申すな。それ以上、言うでない。その続きを聞けば、俺はそなたを殺さねばならなくなる。俺は藤乃、そなたをこの手にかけたくはないのだ。判るであろう、俺はそなたに惚れている。幾ら畜生公と怖れられている俺でも、惚れた女は殺せぬ」
お亀は、ゆるりと首を振った。
「それゆえ、是非ともお聞き頂かねばなりませぬ。殿、どうか、私にお暇を下さりませ。これまで数ならぬ身にお優しさを賜り、心より感謝申し上げまする」
「それでは、まるで別れの科白のようではないか」
嘉利の声が、かすかに震えた。
「―お別れにございます。殿」
お亀の瞳が揺れた。
「教えてくれ。お亀、俺は、俺という人間は、そなたを不幸にしただけなのか。俺は、お前の身体をただ弄んだだけの、お前にとっては顔を見るのも厭な男なのか?」
振り絞るような男の声に、お亀の眼に涙が溢れた。
「いいえ、殿。私は、殿という御方にお逢いできて、幸せにございました。最初の頃は殿をお憎しみしたことがないと申せば、それは嘘になりましょう。さりながら、お側でお仕えする中に、殿のお優しさに触れることも叶いましてございます。私にとって、殿は大切なお方となりました」
「それなら、何故、そなたは俺の許を去る? 大切な存在になったと言いながら、何ゆえ、そなたは俺の傍からいなくなるのだ?」
「それは、どういうことだ」
固い声、強ばった顔。
お亀は、その孤独の影をいっそう濃くした嘉利の顔を切なく見つめた。
「殿にあれほどまでにお情けをかけて頂きながら、私は―」
言いかけたお亀の言葉を嘉利が途中で遮った。
「いや、待て。もう、何も申すな。それ以上、言うでない。その続きを聞けば、俺はそなたを殺さねばならなくなる。俺は藤乃、そなたをこの手にかけたくはないのだ。判るであろう、俺はそなたに惚れている。幾ら畜生公と怖れられている俺でも、惚れた女は殺せぬ」
お亀は、ゆるりと首を振った。
「それゆえ、是非ともお聞き頂かねばなりませぬ。殿、どうか、私にお暇を下さりませ。これまで数ならぬ身にお優しさを賜り、心より感謝申し上げまする」
「それでは、まるで別れの科白のようではないか」
嘉利の声が、かすかに震えた。
「―お別れにございます。殿」
お亀の瞳が揺れた。
「教えてくれ。お亀、俺は、俺という人間は、そなたを不幸にしただけなのか。俺は、お前の身体をただ弄んだだけの、お前にとっては顔を見るのも厭な男なのか?」
振り絞るような男の声に、お亀の眼に涙が溢れた。
「いいえ、殿。私は、殿という御方にお逢いできて、幸せにございました。最初の頃は殿をお憎しみしたことがないと申せば、それは嘘になりましょう。さりながら、お側でお仕えする中に、殿のお優しさに触れることも叶いましてございます。私にとって、殿は大切なお方となりました」
「それなら、何故、そなたは俺の許を去る? 大切な存在になったと言いながら、何ゆえ、そなたは俺の傍からいなくなるのだ?」