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Love adventure
第34章 惑わすBEAT②
「――すいません、いいです」

 野村は、らしかぬ乱暴な仕草で電話を戻した。
 背中にぴったり張り付きながら身体に回されている細い腕をつかみ振り返ると、ふたりの瞳が至近距離で合わさる。

「ねえ、野村君も飲もうよ?」

 あぐりは片手でしがみついたまま、柑橘色が沈むソーダを取って野村の口へ持って行き飲まそうとするが、彼はそっぽを向いた。

「なによう~下戸なの?」

 なおも彼に飲まそうと躍起になるあぐりだが、野村は拒否し、顔をそらす。だが腕はしっかり彼女の身体を抱いていた。
 気がつけば、膝の上にあぐりが乗る格好になっている。

「……いえ、違いますけど……酔うと色んなスイッチが入るので」

 ふし目がちに答えた野村が短い溜息を吐いたのをあぐりは見逃さない。
 頬をつかんで無理矢理自分の方へ向かせた。
 戸惑う色が野村の瞳に浮かぶ。

「……女の子と一緒に居るのに溜息って感じ悪――い!」

 あぐりは上目遣いで責めながら腕を太い首に廻し、つつと動き野村の腰に自分の腰が当たる寸前まで近付いた。

「……吉岡さんも。女性の酩酊した姿は決して感じが良いとは言えませんよ」

 敬遠の言葉とは裏腹に、密着されて、野村は身体の芯が疼いていた。

 耳元に甘い息がかかり、ギクリとすると、あぐりが体重を預けて自分に寄り掛かっている。

「……酔った姿がかわいいっ……て……稲……さ……は…言ってくれた……もん……」

 あぐりは、潤んだ目で遠くを見て、独り言ともつかない呟きを吐く。


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