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Love adventure
第37章 惑わすBEAT⑤
「君、大丈夫か!?」

 若いスタッフに起こされ、あぐりは何とか立ち上がった。

「怪我してるじゃないか!歩ける?」
「はい……なんとか……いたたっ」

 ひざ小僧を擦りむき、皮膚が破れ血が滲んでいた。唇も少し切れてしまったようだ。
 頬や鼻の頭もじんじんするから、内出血でもしているのかも知れない。
 頭にきてつい喧嘩してしまったが、稲川に貰ったピックは守れた。だからよしとしようーーただ、数日の間はお化粧が出来ないかも知れないけれど。






「女の子が取っ組み合いとは感心しないな」

 特別な響きを持つその声が頭上で聞こえた。
 あぐりの全身が総毛立つ。
 ステージ衣装からラフな白シャツとGパンに着替えた稲川が、苦笑してそこにいた。
 女の子達が悲鳴を上げ、ライヴハウス周辺はパニックになりかける。

「――!!」

 あぐりも叫びかけるが、稲川は立てた人差し指をあぐりの口にあて、「しーーっ」と小さく言った。

「すまない。ここは何とか収めておいてくれ」

 稲川は男らしい低い声でスタッフに言い、あぐりの手を素早く引いて走り出した。
 周囲から凄まじい絶叫が起こる。
 稲川は物凄いスピードで走るが、あぐりは足が痛み、思わず声を上げた。

「い…いたっ」
「……ゴメン。走れないよね」

 稲川は、あぐりの肩を抱き建物の陰に身を潜め周囲を確認すると、身を屈めて後ろを振り返る。

「ほら」
「え?」
「背中に乗って」
「えええっ」
「早く!」
「は、はいっ」




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