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Love adventure
第37章 惑わすBEAT⑤
 彼の背中におぶさると、フワリと石鹸の薫りがした。
 脚をぐっと抱え込まれ、息が止まりそうになる。

「しっかりつかまってて」

 彼に言われて、怖ず怖ずと、逞しい肩に触れる。骨張った感触にドギマギした。
 稲川は人通りの多い駅前まで来たが、タクシーは長蛇の列だ。

「う――ん。その脚じゃ電車とか大変だよなあ」

 あぐりは、鼻先に触れる稲川の髪の薫りをうっとりと堪能していたが、思い切りくしゃみをしてしまった。

「ご、ゴメンなさい」
「大丈夫?それにしても豪快なくしゃみだなあ」

 稲川はげらげらと笑った。
 あぐりが赤くなり俯くと、稲川は笑うのを止め、声色を変えて話す。

「――家まで送ってあげたいけど、困ったな」
「帰っても誰も居ません」
「そうなの?」
「さっきまで凄く楽しかったから……静かな家に帰るのが嫌……」
「わかるよ」
「え?」
「俺んちもそんな感じだったからさ。
 真っ暗な家に帰るほど寂しい事はないよな」
「……」
「でも今は、ライブで沢山のファンの皆が待っていてくれる。だから最高に幸せだよ」
「私――は」
「うん?」
「私は……ライブだけでしか会えないなんて嫌!」


 あぐりは、おぶさりながら稲川の首に思い切りしがみついた。




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