この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
Love adventure
第37章 惑わすBEAT⑤
彼の背中におぶさると、フワリと石鹸の薫りがした。
脚をぐっと抱え込まれ、息が止まりそうになる。
「しっかりつかまってて」
彼に言われて、怖ず怖ずと、逞しい肩に触れる。骨張った感触にドギマギした。
稲川は人通りの多い駅前まで来たが、タクシーは長蛇の列だ。
「う――ん。その脚じゃ電車とか大変だよなあ」
あぐりは、鼻先に触れる稲川の髪の薫りをうっとりと堪能していたが、思い切りくしゃみをしてしまった。
「ご、ゴメンなさい」
「大丈夫?それにしても豪快なくしゃみだなあ」
稲川はげらげらと笑った。
あぐりが赤くなり俯くと、稲川は笑うのを止め、声色を変えて話す。
「――家まで送ってあげたいけど、困ったな」
「帰っても誰も居ません」
「そうなの?」
「さっきまで凄く楽しかったから……静かな家に帰るのが嫌……」
「わかるよ」
「え?」
「俺んちもそんな感じだったからさ。
真っ暗な家に帰るほど寂しい事はないよな」
「……」
「でも今は、ライブで沢山のファンの皆が待っていてくれる。だから最高に幸せだよ」
「私――は」
「うん?」
「私は……ライブだけでしか会えないなんて嫌!」
あぐりは、おぶさりながら稲川の首に思い切りしがみついた。
脚をぐっと抱え込まれ、息が止まりそうになる。
「しっかりつかまってて」
彼に言われて、怖ず怖ずと、逞しい肩に触れる。骨張った感触にドギマギした。
稲川は人通りの多い駅前まで来たが、タクシーは長蛇の列だ。
「う――ん。その脚じゃ電車とか大変だよなあ」
あぐりは、鼻先に触れる稲川の髪の薫りをうっとりと堪能していたが、思い切りくしゃみをしてしまった。
「ご、ゴメンなさい」
「大丈夫?それにしても豪快なくしゃみだなあ」
稲川はげらげらと笑った。
あぐりが赤くなり俯くと、稲川は笑うのを止め、声色を変えて話す。
「――家まで送ってあげたいけど、困ったな」
「帰っても誰も居ません」
「そうなの?」
「さっきまで凄く楽しかったから……静かな家に帰るのが嫌……」
「わかるよ」
「え?」
「俺んちもそんな感じだったからさ。
真っ暗な家に帰るほど寂しい事はないよな」
「……」
「でも今は、ライブで沢山のファンの皆が待っていてくれる。だから最高に幸せだよ」
「私――は」
「うん?」
「私は……ライブだけでしか会えないなんて嫌!」
あぐりは、おぶさりながら稲川の首に思い切りしがみついた。