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Love adventure
第4章 あなたに、とらわれて
 控室の壁には、ミュージシャンのサインが無数に書かれていた。
 今やドームツアーをするほどのビッグなバンドの名前もあり、思わず感嘆する。

「すご……」

 小さくつぶやいた時、真後ろで
「うん。すごいよね」と声がした。

「ーー!」
 
 ほなみは飛びのき、持っていたCDを落としてしまった。

「――大変っ」

 慌てて拾おうとして屈むと、一緒に屈んでCDを拾い上げる人物を見て息をのんだ。

 ――西君だ。

 ステージではスーツ姿だったが、ゆったりとしたシンプルなTシャツとGパンに着替えていた。先程よりも男性ぽさが感じられる。
 身体の線は細いけれど、手は思いのほか骨張り大きくて、ほなみの手はすっぽりと包まれてしまうだろう。

「驚かしてゴメンね」

 真っすぐに見つめられ、ほなみは余裕が全く無くなってしまった。
 長いまつ毛におおわれた彼の瞳は、おどおどと戸惑うほなみを見て、わずかに揺れた。

「たくさん買ってくれたんだね、ありがとう……どれにサインする?全部にして欲しければ、全部に書くよ?」

 緊張のあまり、カクカクと奇妙な動きでうなずくしかできなかった。
 何が可笑しいのか、彼はクスリと笑みを零し、CDのケースを優雅な手つきで開くと盤面にサラサラとペンを走らせた。


「お名前は?」
「は……はいっ?」
「……あなたの、名前」

 西本祐樹は優しい笑みをたたえた瞳で、ほなみの目を見つめ、ゆっくりと訊ねる。
 ほなみは、胸苦しさで喉がつまるような感覚を覚えながら、やっとの思いで答えた。

「ほ……ほなみ、です」

 彼はCDに"ほなみへ"と書き加える。

「他のメンバーにも書いてもらってくるから、ちょっと待っててね?」

 滑らかな口調でそう言うと、部屋から出て行こうとした。

「待って!」

 ほなみの口から、自分でもびっくりするような大きな声が出た。
 彼が目を丸くして振り返る。
 ほなみは、バッグからラッピングしたトリュフのチョコレートを差し出した。



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