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第56章 　あの夜の君を抱いて

｢……智也さんのためです｣

　中野は一見、人の良さそうな風貌だが、実は凄腕の探偵で武道の達人でもあり、元はヤクザだったという噂もある。
　表向きは用務員だが、会社の裏の部分で暗躍している。

｢この間もマズい事をしたばかりだろう。勝手な真似ばかりするんじゃない！｣

　智也が叱責すると、中野は口もとにだけ笑みを浮かべた。

｢夫の元へ妻を連れ戻しただけです。何か問題が？｣
｢……！｣
｢貴方も、望んでいた筈でしょう。今日は、ゆっくり話し合われるといい｣

　ほなみが軽く痙攣をしはじめた。

｢や……や……いやあ！｣
｢ほなみ！｣

　小刻みに震える身体を抱き締めると、物凄い力でしがみついて来て、智也はその仕種に胸を撃ち抜かれる。